なんと、今話題の腸内細菌が「漢方薬」を“食べて”いる…? 腸の中で起こっている「驚きの現象」
大建中湯は、腸内細菌の「上質のエサ」
前置きが長くなりましたが、理化学研究所の研究により、大建中湯によって腸内細菌の代謝産物が増え、それによって免疫機能が高まり、腸の炎症が改善される、という精緻なメカニズムが確認されたのです。 具体的にはまず、腸炎を起こしたマウスに大建中湯を投与します。すると、健康なマウスの腸に多く存在するラクトバチルス菌という種類が増えて、その代謝産物であるプロピオン酸と呼ばれる物質も増加しました。プロピオン酸は短鎖脂肪酸のひとつで、腸のエネルギー源としても役立ちますが、最新の研究で、免疫細胞にはたらきかける役割があることがわかっています。 研究では、プロピオン酸は、腸の免疫機能の維持に大きな役割を果たしている3型自然リンパ球(ILC3)の表面にある受容体と結合し、そのはたらきを高め、数を増やすことがわかりました。さらに、活性化した3型自然リンパ球は、炎症を調節するサイトカイン(IL‐22)を放出します。この物質は、腸の粘膜をつくるメッセージを腸の細胞に伝えるはたらきがあります。こうして、腸の粘膜が増えてバリア機能が高まり、炎症が治まることが確認されたのです。 つまり大建中湯は、いわゆる善玉菌であるラクトバチルス菌を増やす「上質のエサ」となり、代謝産物を介して免疫機能を改善し、腸炎を抑制していたわけです。 これまでも、漢方薬と腸内細菌、そして免疫の関係は注目されてきましたが、ここまで精緻にメカニズムが検証、確認されたのは初めてのことです。これは、近年の解析技術の進歩によって腸内細菌や免疫細胞のはたらきを細かく、しかも安価に分析できるようになったことが背景にあります。 ---------- ----------
山本 高穂(NHK チーフ・ディレクター)/大野 智(島根大学医学部附属病院 臨床研究センター長・教授)