胆嚢がんを患う女性が要介護認定前に死亡 利用したベッド代が全額自己負担に…国が末期がんの認定迅速化に乗り出す
末期がん患者が退院後の在宅生活で、利用した介護保険サービスの費用を患者側が全額自己負担せざるを得ないケースが生じている。本来は原則9割が保険から支給されるが、手続きが済む前に亡くなると、認められないからだ。患者団体は、症状の進行が速い末期がん患者のため、手続きの迅速化を求めており、国が新たな対策に乗り出した。(河野越男) 【図解】食べてもやせる…進行がん患者の「がん悪液質」とは
三重県熊野市で、末期の胆嚢(たんのう)がんと診断された60歳代の女性は2020年春、退院し、自宅で療養することにした。直前、病院から連絡を受けた同市のケアマネジャーの冨田啓暢さん(76)は、女性が戻ったばかりの自宅を訪問。介護の必要度合い「要介護度」を判定してもらうため、自治体に申請し、調査員による訪問調査を急ぐように頼んだ。 要介護認定の前でも、ケアマネジャーが暫定的なケアプラン(介護計画)を作れば、サービスの利用を開始できるため、女性は介護ベッドを申し込み、すぐに福祉用具の業者に運んでもらった。 訪問調査の日程は、申請の2日後に設定されたが、体調が悪化して受診したため、さらに4日後に延期になった。しかし、女性は調査の前日に亡くなった。
本来は自己負担分の1割に当たる月1000円程度でレンタルできたが、女性の場合、全額の約1万円の負担となり、家族が支払った。調査員に心身の状態を確認してもらう訪問調査の前に亡くなると、要介護度を判定できないことから、保険から9割分の費用が支給されないためだ。 冨田さんは「入院中の早い段階で申請をして、調査が間に合っていれば、全額自己負担になるのを避けられた」と振り返った。
末期がん患者は病状の進行が速く、急速に状態が悪化しやすい。このため、厚生労働省は2010年、末期がん患者が退院後、スムーズに介護サービスを受けられるよう、医療機関とケアマネジャーの連携や、市区町村による認定業務の迅速化などを求める通知を出した。 しかし、国立がん研究センターが、がん患者の遺族らを対象に行った実態調査(19~20年)で、介護保険から費用が支給される条件の訪問調査を受ける前に亡くなるケースは複数確認されている。 介護サービスは、高齢者だけではなく、40~64歳でも末期がん患者であれば使えるが、全国がん患者団体連合会の桜井なおみ理事は「患者や家族、医療従事者に浸透しておらず、調査の申請が遅れる場合がある」と指摘する。 さいたま市では22年度、40~64歳の末期がん患者で調査前に亡くなった人が31人いた。日程を調整中に亡くなったり、病状が安定せずに調査がキャンセルされた後、亡くなったりするケースがある。 市によると、末期がん患者への訪問調査は優先的に行っている。申請から訪問までの平均期間は通常、約14日だが、40~64歳の患者の場合は約10日。それでも、毎年30人程度が調査前に亡くなるという。 桜井理事は「要介護認定を受けられず、介護費用を全額自己負担せざるを得ない状況は、介護する家族にとって負担が大きい」と訴えている。