イリオモテヤマネコとカンムリワシ、餌を分け合い「ゆいまーる」で共存 琉球大
沖縄県の西表島(竹富町)に生息する国の特別天然記念物で絶滅危惧種のイリオモテヤマネコとカンムリワシは、食物連鎖の頂点にいるにもかかわらず、互いに競合しないで餌を分け合っていることを、琉球大学などの研究グループが明らかにした。フンに含まれるDNAから食性を解析し、季節を違えて同じ種類の餌を食べていることがわかった。沖縄には相互扶助の「ゆいまーる」という文化があるが、2種も同様の形で生き残ってきた。
食物連鎖の頂点同士の共存
世界自然遺産である西表島は沖縄島から約400キロメートル離れており、島の大半を環境省・林野庁が管理している。独自の生態系が存在し、県内の他の離島に比べて手つかずの自然が残る。この西表島で食物連鎖の頂点に位置するのがイリオモテヤマネコとカンムリワシだ。理論上は餌を奪い合うことになり、互いの生存を脅かす可能性があるにもかかわらず、長年共存してきた。その謎を解き明かすため、琉球大学理学部の伊澤雅子名誉教授(動物生態学、現・北九州市立いのちのたび博物館長)らのグループがフンの中に含まれる生き物のDNAを用いた食性解析を行うことにした。
フンを解析 カンムリワシは困難極める
伊澤名誉教授はイリオモテヤマネコやツシマヤマネコの研究を長らく続けてきた。ヤマネコは様々な生き物を餌にしていることが分かっている。とりわけイリオモテヤマネコは、哺乳類・鳥類・両生類・爬虫類・昆虫類・エビやカニなど多様な生物を食べる。フンに未消化の骨や鳥の羽、うろこが含まれている場合は何を食べたかが分かりやすいが、ミミズやチョウの体のような柔らかい組織は消化されてしまい、目で見ても分からない。
しかし、より困難なのはカンムリワシだった。カンムリワシのフンは上空から落下するため、風で流されたり、空中で分解したりと捕らえにくい。また、フンを見ただけでは何をエサにしているか分からない。採取は困難を極めたが、大学院生と協力し、カンムリワシを追ってフンが落ちるのを待ったり、落下したフンをうまく回収したりして解析にこぎつけた。 環境省と林野庁の協力も得て、イリオモテヤマネコは夏に31個、冬に64個のフンを、カンムリワシは夏に21個、冬に9個のフンを集めた。保護されたカンムリワシからフンを採取することもあった。夏と冬に限定したのは、沖縄県の気候では、春と秋の区分けが難しいためだ。そして、フンの中にどのような生き物が含まれているかを調べるため、DNAバーコーディングという方法を用いて解析した。これは、フンの中から検出したDNAを、既知の種のDNAと照合する手法である。沖縄の生き物の多くは、DNAのリファレンスデータがあったため、その一覧と照合した。ただし、昆虫類は種類が多岐にわたり、完全なデータベースはできていないが、一部は分かっている。