「ええねん、ええねん」ダウン症の弟が、初めて稼いだ大金でおごってくれた“マクドの味”
作家の岸田奈美さんの弟・良太さんは、ダウン症で知的障害があり、福祉作業所で働いています。あるとき、良太さんにカレンダーの数字を書くという仕事が舞い込みます。そこで大金を稼いだ良太さん。ずっとほしいと言っていたゲームを買うだろうとにらんでいた奈美さんでしたが、弟はひたすらマクドナルドを買います。それも母や奈美さんのために。そこで、奈美さんは、良太さんが何に憧れていたかに気づきます。 【イラスト】岸田奈美さん母の"奇跡の二枚舌子育て" ※本稿は、岸田奈美著『国道沿いで、だいじょうぶ100回』(小学館)から一部抜粋・編集したものです。
弟が大金を稼いだので、なにに使うかと思ったら
その日、岸田家の歴史が揺らいだ。 弟が、莫大なお金を稼いだのである。莫大とは具体的に、ダウン症の彼が福祉作業所で30年働いてやっと手にするはずの金額。それを、ものの数時間で稼いだのである。わが家から、富豪が爆誕した。 福祉作業所では、平日の朝から夕方まで気ままに働き、日給は500円だが昼食が450円なので、手取りわずか50円だった弟が。一夜にして、富豪に成ったのだ。 さて、気になる稼ぎ方は。カレンダーの数字を書く職人だ。文字を書けなかったはずの弟が、わたしの初作『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を出版するとき、ページの数字(ノンブル)を練習して書いてくれたことがあった。報酬は、わたしからのコーラ一本で、手を打ってくれた。 出版後、「良太さんに、手帳のカレンダーを書いてもらいたいのです」 ノンブルが株式会社ほぼ日の皆さんの目に留まり、弟あての依頼が舞い込んだ。どっひぇー。たまげた。 このあと、「仕事の受注には、まず弊社が運営しているカレンダープロフェッショナルアカデミー(入会金50万円、月謝5万円)に2年間通ってもらい、練習生としてオーディションに挑戦していただくことになります」......などと罠に誘われてもおかしくないほど、美味い話である。 「良太、お仕事、やってみる?」 「んー、ええで」弟は答えた。 すでにカレンダー職人の貫禄があった。