菅政権の「大改革」が成功する条件とは何か その歴史的ヴィジョン
新しい黒船は途上国からも
デジタル社会の覇者となったのは、まずアメリカである。 もちろんアメリカは工業技術の雄であったが、ヨーロッパほど社会が成熟していたわけでもなく、民生用工業技術においては日本に抜かれたという危機感があった。それまでのコングロマリットと呼ばれた巨大複合企業に代わるベンチャービジネスの勃興によって、デジタル産業が膨らんでいった。 そして中国がこれを猛烈に追い上げている。さらに韓国、インド、北欧、東欧などが追う。アメリカはベンチャー的に、中国、韓国は国家的に、インドは個人的に、北欧、東欧は社会的に、デジタル化を進めている。新しい黒船は、途上国からもやってきたのだ。 しかし日本は、工業技術の成功によって社会の隅々にこれを基本とする精緻なシステムが浸透していたために、かえってデジタル社会への転換が進まなかった。キャッシュレス化が進まず、他国ほどにはインターネット企業が育たないことは指摘されていたが、今回のコロナ対応でも、危機管理の法律と体制が存在しない、それぞれの省庁が縦割りでタスクフォース(目的に応じた機動的な組織)が成り立たない、中途半端に成立したマイナンバーは役に立たない、そういったことが明るみに出た。 ある意味で今の日本政府は工業化時代の江戸幕府であり、国民は「デジタルの黒船」を目の当たりにして右往左往、つまり「デジタル維新」を迫られているのだ。しかし単に世の中をコンピュータ化すればいいということではない。菅政権は「デジタル庁」を創設するが、デジタルは一つの指標に過ぎない。明治維新において工業文明を取り入れるために武士階級をなくすという大改革を必要としたように、デジタルをテコにして日本の行政機構の大改革を断行する必要がある。地方分権はその一つの方策となる可能性がある。また今回の大改革の範囲は、公的法人はもとより、民間にも及ぶように思われる。つまり大改革の成功には、官僚ばかりでなく、国民の意識革命が必要なのだ。 しかし簡単ではない。国民の多くはまだ危機感の淵に立っているわけではない。そうとうの抵抗が生じるだろう。そこに少子高齢化と人口減少と東アジアの不安定と地球温暖化がのしかかる。歴史的に見て、大改革の成否は全国民の「危機感」にかかっていると思われる。成果が出るには時間がかかる。手術と同様、体力が低下する期間も覚悟する必要がある。 歴史は、どの国民にもどの階層にも、平和と繁栄の上に安住することを許したことがない。