エース石川祐希が初めて綴った<本音>。パリ五輪出場権獲得の瞬間の心境は「喜び」より実は…
◆念願のオリンピックの出場権獲得 長く応援して下さっている方のなかには、もっといろいろな思いが込み上げていた方もいたかもしれない。 想像もできないほどたくさんの方々の注目が集まるなかでの最後の1点は、スロベニアのサーブが日本のエンドラインを大きく割り、サーブミスでの25点目。 ラインをオーバーするところまでしっかり見届けて、僕は勝利を確信した。 「やったー!!」 ベンチのフィリップ・ブラン監督や、スタッフ陣、アップゾーンでずっと声を出し 続けていたリザーブの選手たちが一気に駆け寄り、コートへなだれ込んでくる。 まさに割れんばかりの会場の大声援も聞こえた。 ガッツポーズをしながらコートを1周する選手や、同じポジションの選手同士で抱き合う姿も見えた。 それぞれがそれぞれのかたちで喜び合う光景を見て、僕は心の底から思った。 終わった。 僕らはオリンピックの出場権を手に入れた。 勝ったんだ。 2023年のシーズンが始まるときからずっと、僕たち男子バレー日本代表にとっていちばん大きな目標、最大のターゲットが、パリオリンピックの出場権を獲得することだった。
◆「オリンピック出場」という目標を達成できた安堵 6月から7月まで開催されたネーションズリーグで3位になり、初めて銅メダルを獲得したときも、8月のアジア選手権で3大会ぶりに優勝してアジアナンバーワンになったときも嬉しかったけれど、心の中では「まだまだ、オリンピック予選がある」 と全員が思い続けてきた。 そして、そこで勝つための準備もしてきた。 ところが、万全の状態で臨(のぞ)むために日々過ごしてきたにもかかわらず、僕はアジア選手権を終えてから腰痛を発症してしまった。 9月30日、パリオリンピック予選が始まる。 大会直前から、大会が始まってからも、ベストコンディションには程遠い状態だった。 けっして焦(あせ)る気持ちがあったわけではない。 でも、初戦はフィンランドに2対0とリードしながら追い上げられ、辛(から)くもフルセット勝ち。 翌日のエジプト戦も2対0から追い上げられ、フルセットで逆転負けを喫した。 3戦目のチュニジア戦でようやく3対0、そこからはトルコ、セルビアという難敵相手にもストレート勝ちを収めることができた。 それでも油断はしなかった。 最後の最後まで何が起こるかわからない。 1点や1セットが重要になるのがオリンピック予選だ。 つねに極限まで緊張感を高め続けてきたこともあり、スロベニアにストレートで勝った瞬間、僕の中に溢(あふ)れたのは爆発的な喜びではなく、目標を達成できたという安堵(あんど)だった。 感情が込み上げたのは、西田有志(にしだゆうじ)選手の涙を見たときだった。 コートの中でいつも熱くプレーして、誰が獲った1点でも全力で喜ぶ。 そんな西田選手の涙を見たら、思わず僕ももらい泣きしてしまった。 振り返れば高校時代や大学時代も、日本一になったときや負けてしまったあと、いつも誰かの涙にもらい泣きしている。
【関連記事】
- 男子バレー日本代表は、「個」の力とブラン監督の存在で世界を魅了する。サーブの打ち分けや《フェイクセット》など、日本の常識を覆す挑戦を恐れない
- 133連勝中のレスリング・藤波朱理、狙うはパリ五輪の金メダル「母の料理は、ダシの利いた薄味で最高です」
- ふたたび世界を席巻する伝説マンガ『SLAM DUNK』。バルセロナ五輪とともに起こした<92年のバスケとバッシュブーム>を振り返る
- パリ五輪開幕!競泳・池江璃花子母 池江美由紀「娘を育んだ〈夢を叶える〉メソッド。〈褒めたら勝手にやる〉娘は、一度も習っていない平泳ぎで泳ぎ始めた」
- 田中達也「作品名は〈水泳選手は目も超いい〉『メモ帳』と『チョー気持ちいい』をかけて。リングの部分を飛び込み台に、ツヤのある水色の表紙を水面に」