不法移民に「みかじめ料」を払い、不法労働で稼ぐ。それでもメキシコは祖国よりましだ 背後には犯罪組織?「無法地帯」で見た現実と埋めがたい格差
「この国で家族と暮らしたい」。まだ3歳の娘を祖国・ハイチに残してきた男性は、過酷な旅路の果てにこう語った。 【写真】「娘に愛国教育は受けさせたくない」アメリカへ不法越境した中国人が語った本音 闇業者に頼り、長旅の果てに…
ここはメキシコ。中南米からの移民の目的地といえばアメリカのイメージが強く、実際にアメリカを目指す人は後を絶たない。一方で、以前はただの「経由地」とみなされていたメキシコでの定住を望む人が増えている。男性もその一人だ。 アメリカとメキシコ両国による国境地帯の取り締まり強化や強制送還のリスクから米国入りが以前より難しくなっていることなどが背景にあるが、メキシコでの滞在許可取得の手続きが長引き、不法滞在が長期化するケースも目立つ。2024年6月、首都メキシコ市を訪れると、移民が別の移民に「みかじめ料」として金銭を支払っている実態があった。背後には犯罪組織の関与も指摘される。現地で垣間見た不法移民間の格差と、当局も手をこまねく「無法地帯」の現状を伝える。(年齢は取材当時、敬称略 共同通信ロサンゼルス支局 井上浩志) ▽並ぶテント、移民の生活拠点に 大規模な市場があることで知られるメキシコ市の「ラ・メルセー」の周辺。どことなく不穏な空気が漂う。駐車のため公共駐車場に入ると、壁に大きく「小便禁止」と書かれているのが目を引いた。車を降りて鼻を突く臭いを感じつつ、出入り口を通って外に出て徒歩約10分。カトリックの「ソレダー教会」にたどり着いた。
教会前の広場や、隣接する公園にはテントが並んでいた。その数、500超。周囲を歩き回りながら中をのぞくと、ベッドやソファ、タンスまで置かれているテントもあった。長期にわたって滞在している様子がうかがえる。広場の一角に置かれたスピーカーからは、音楽が大音量で流れていた。公園内には屋台もあった。無料の炊き出しではなく移民が商売として営んでおり、「青空食堂」といった雰囲気だ。 スピーカーの前でたむろしたり、屋台で食事を取ったりする移民の写真を撮りたかったが、同行してくれたメキシコ人助手や移民の支援者から「刺激しない方がいい」「撮るなら離れた場所から」と制止され、断念した。 ▽「娘と暮らすため」 「目的地をアメリカから変えた」。広場にテントを置いて寝泊まりするハイチ人のマキン・デスティン(26)は、このままメキシコに住む決意だ。カリブ海にあるハイチは2021年にモイーズ大統領が武装集団に暗殺されて以降、政情不安が広がり、治安も極度に悪化。デスティンは2023年8月に妻のレイモンド・アリストス(39)と共に国を離れ、2024年2月ごろにメキシコ市に着いた。ハイチから飛行機で中米ニカラグアに向かい、そこからはひたすら歩いて北上したという。