不法移民に「みかじめ料」を払い、不法労働で稼ぐ。それでもメキシコは祖国よりましだ 背後には犯罪組織?「無法地帯」で見た現実と埋めがたい格差
目的地を変えた最大の理由は、ハイチに残してきた娘(3)の存在だ。アメリカよりもメキシコの方が合法的に娘を呼び寄せやすいと知り、目的地をメキシコに変えた。北部の工業都市モンテレイに移り、妻とレストランを開くのが夢だ。 国際移住機関(IOM)が2024年1~3月、メキシコの南部国境付近で流入者に実施した調査では、46%がメキシコが目的地だと回答、51%のアメリカに続いた。前年の調査では、メキシコが目的地だと回答したのは9~53%だった。月によりばらつきはあるものの、メキシコはもはや「アメリカ行きの通過地点」ではない。ただ、滞在許可申請の手続きを行う人員が不足しているようで、専門家は滞在許可を得るのに数カ月を要するようになったと指摘する。アメリカへの移民希望者についても手続きの遅れが常態化しており、メキシコでの足止めを余儀なくされているという。 ▽移民間の「みかじめ料」 滞在許可を得るための手続きを待つデスティンとアリストスは、不法労働に従事する。デスティンはハイチ人から紹介を受けて工事現場で働き、1日8時間、週6日の労働で週に2300ペソ(約1万8千円)ほどの収入を得ている。アリストスはテント前で軽食を調理して販売し、売り上げが好調な時の利益は週に2500ペソほど。2人ともメキシコの最低賃金である1日約250ペソは上回ることになる。
その一方で、「1日50ペソ」をベネズエラ人移民に支払わなければならないという。一体どういうことなのか。 その背景を教えてくれたのは、ハイチの公用語の一つ、クレオール語の通訳として同行してくれたジェプテ・レオン(42)だ。移民の中で多数派を占めるベネズエラ人の一部が、ハイチ人らが商売を営む場合に「場所代」として金銭を要求しているというのだ。レオンによれば、ベネズエラ人の一部は電気や水道を盗んで移民らに供給しており、移民らはその利用料も支払う必要がある。もし「場所代」の支払いを断れば電気や水道の利用も止められるため、生活インフラを維持するためには従わざるを得ない。 ソレダー教会から1キロあまり離れると、「テピート」と呼ばれる治安の悪い地区がある。日本の外務省が「麻薬に関するトラブルや拳銃強盗・殺人などの凶悪事件が発生するなど犯罪の温床となっている」として、立ち入らないよう呼びかけている場所だ。他の移民から金銭を徴収するベネズエラ人は、ここに拠点を置く犯罪組織の関係者と結託している場合もあるという。