作業効率が悪いときは時計の「運針速度」を速めてみる【科学が証明!ストレス解消法】
【科学が証明!ストレス解消法】#192 集中しているとき、不思議と時間が早く感じられることがないでしょうか? 千葉大学の研究によると、感じている時間というのは、体験した出来事の数ではなく、出来事を「体験した」と認識するために必要な脳のエネルギーや集中力を使えば使うほど長く感じられる--。つまり、今やっていることにどれだけ一生懸命に頭を使っているかによって、体感時間が変わるということが示されたといいます。 天才物理学者アインシュタインの脳に見られる特徴とは? また、生物学者のヴァン・ワッセンホフらの研究チームは、1秒間に起こったことの順序を脳がどのように認識するかを研究しています。その結果、見るものや聞くものによって、時間の受け取り方が変わることを突き止めています。 例えば、視界の中で対象物が大きくなったり近づいたりすると、時間がより長く感じられることが分かったといい、何かに強い注意を向けると、時間の認識が歪められることも判明したそうです。すなわち、強い注意を向ける=集中していると、時間が早く過ぎ去ったように感じられるというのです。 このように時間感覚は、理屈さえわかれば、ある程度コントロールすることが可能というわけです。東京大学の伴らによる、「時計の運針速度を速めると、作業の量的質的効率が向上する」という興味深い研究(2016年)があります。運針とは針の動きのことです。秒、分、時間ごとに進む時計の針の速度を速めると、作業効率が向上するというのだから驚きでしょう。 実験では、下記の3つの条件を用意し、キーボードを見ずにタイピングができる21~24歳の被験者6人に30分間の文章入力作業などを、日を変えてそれぞれの条件のもとでやってもらいました。 【条件1】時計の運針速度を遅らせて3分の2倍速にする 【条件2】時計の運針速度を変えない 【条件3】時計の運針速度を1.5倍速にする そして、その結果を調べたところ、時計の運針速度と作業速度に正の相関が見られたといいます。つまり入力文字数が【条件3】>【条件2】>【条件1】の順で多く、それぞれ約8%(約400文字)の作業量の変化があったというのです。ちなみに質においては、運針速度にかかわらず、有意な差はなかったそうです。 また、時計の運針速度の変化に気づいても気づかなくても作業効率に変化はなく、また疲労度やリラックス度についても変化はなかったといいます。運針速度を変えるだけで、クオリティーを下げずに作業が早くなるというのは、とても魅力的な話ではないでしょうか。 同じ時間にもかかわらず作業量が増えているということは、それだけ集中しているとも言えます。集中すると認知的負荷が少なくなりますから、相乗するように効率が上がっていきます。そのため、集中しているときは仕事がはかどるとも言えるのです。適度に休憩を挟みながら、今回紹介した方法を取り入れてみると、集中して仕事や作業がはかどるはずですよ。 (堀田秀吾/明治大学教授、言語学者)