兄さんの見台で一緒に笑いを…笑福亭智六さんの形見が若手公演の場に
今年5月に病気のため45歳で亡くなった上方落語家、笑福亭智六（ちろく）（本名・畑山浩志）さんの見台などが、若手噺家（はなしか）の公演の場として今月28日にオープンする「笑仁亭（しょうじんてい）」（大阪市浪速区）で活用されることになった。一門の垣根を越えて仲間と交流し、後輩思いでもあった智六さん。弟弟子らは「これからもお兄さんと一緒に落語ができる。魂を受け継ぎたい」と話す。 智六さんが使っていた見台と膝隠し、小拍子（大阪市浪速区の笑仁亭で）
智六さんは神戸市出身。大学を卒業し、営業の仕事をへて2007年、笑福亭仁智さん（72）に弟子入りした。28歳での入門は周りに比べて遅い方で、アマチュア落語の経験もない一からのスタートだった。
仁智さんは「ネタを覚えるのに苦労し、修業には他の弟子より1年長い4年かかった」と振り返る。しかし、独り立ちしてからは自作の落語に挑戦するなどし、高座に上がるだけでおかしみを感じさせる味のあるキャラクターで愛された。
順調に芸歴を重ねる一方で、ここ数年は持病のため入退院を繰り返し、5月29日に帰らぬ人となった。6月の天満天神繁昌（はんじょう）亭（大阪市北区）での公演を楽しみにし、最期まで、病床で稽古を続けていたという。
仁智さんは「若い頃にバンドでベースを担当しており、いつか鳴り物にベースを取り入れたいと構想していた。これからさらに、持ち味を生かした落語をすると思っていたのに」と無念さをにじませる。
告別式が終わった後、公私ともに付き合いが深かった桂福枝さん（35）は、智六さんが公演で使っていた白木の見台と膝隠し、小拍子などを形見として譲り受けた。見台には小拍子を勢いよくたたいた跡らしきへこみが残る。手元に置いておくつもりだったが、大阪・日本橋で開設準備が進んでいた笑仁亭に置いて出演者に使ってもらうことを思いついた。
笑仁亭は、地元の落語ファンが、手頃な会場探しに苦労する若手落語家のために製本所を改装して作った多目的スペース。智六さんは後輩の落語会にまめに足を運び、時には「出演料は要らないから」と飛び入りで舞台に上がることもあった。弟弟子の笑福亭智丸さん（35）らに「若手の助けになることは、兄さんの意向にも沿っているのでは」と相談すると、賛同が得られた。
今月28日に開かれるこけら落とし公演で智六さんの死後、初めて使われる。福枝さんと智丸さんも出演する予定で、2人は「お世話になった先輩のためにも、気合を入れて演じたい」と意気込んでいる。（吉田清均）
