女性の脱毛症はいまだ謎だらけ、女性の2~3人に1人が経験、男性の薄毛と何が違うのか
男女それぞれの原因や治療法は、男性の「母方から遺伝」は本当?
脱毛症は命に関わる病気ではないが、人の人生を変えてしまうことはある。髪を失うのは自分自身を失うことにも等しいと思う人は多い。 判定画像:老化の度合いはやはり顔に表れる 脱毛症は驚くほど一般的だ。米国脱毛症協会によると、米国人男性の3人に2人が、35歳までに髪が薄くなっていることに気付くという。50歳になると、その割合は85%にまで上昇する。さらに、男性ほど語られはしないものの、女性で薄毛になる人も多く、米国の場合、脱毛症の経験者の約40%が女性だという。 これほど多くの人が経験するというのに、脱毛症についてわかっていることは意外なほど少ない。特に、過去の研究の大多数は男性型脱毛症を対象としており、それ以外の脱毛症に関しては理解がほとんど進んでいない。 そこで、脱毛症はどんな人が経験するのか、なぜ起こるのか、脱毛症になった場合はどんな手が打てるのかなど、専門家に聞いてみた。
テストステロンと脱毛
数千年前からすでに、男性の性的な発達と薄毛は関連付けられてきた。古代ギリシャの医学文献には、「去勢された男性は禿(は)げない」と書かれている。 今では、男性の薄毛の原因として圧倒的に多い男性型脱毛症はアンドロゲン(男性ホルモンの総称)によって起こることが知られている。男性型脱毛症を指す「AGA」は「アンドロゲン性脱毛症」から来ている。 しかし、原因がわかったのは、不幸にもかつて一部の米国人に対して行われていた不当な措置によるところが大きい。1942年、解剖学者のジェームス・ハミルトンは、優生運動の一環として不妊手術を受けさせられた精神障害者を研究したところ、思春期前に手術を受けた男性が、テストステロン(男性ホルモンの一つ)治療を受けた場合を除き、男性型脱毛症にならなかったことを明らかにした。 ハミルトンの研究から生まれた脱毛パターンの分類法は、現在もAGAの進行度を判定するために使用されている。
男性型脱毛症はなぜ起こるのか
男性型脱毛症は、ジヒドロテストステロン(DHT)と呼ばれる男性ホルモンに関係していると考えられている。体内のテストステロンの約10%が日々、DHTに変換されている。 過敏な頭皮の毛包がDHTに反応すると、毛包は縮小して毛髪サイクルの成長期が短くなり、十分に成長できなくなってしまうのだと、英シェフィールド大学の元皮膚科学者アンドリュー・メッセンジャー氏は言う。すると髪は細くなり、抜け落ちやすくなる。 不思議なことに、頭の後ろや横の毛包は、頭頂部と同じようにはDHTに反応しない傾向がある。これが、生え際が後退したり頭頂部が薄くなったりする(後ろや横は髪が残りやすい)男性特有の脱毛パターンにつながっている。 さらに、アンドロゲンは頭皮以外のほぼすべての場所で、頭皮とは逆の働きをする。人間でもほかの動物でも、アンドロゲンは体毛にもっと太く、濃く、長くなるよう指示を出す。思春期を過ぎた男性の体毛が濃くなり、ひげが生えるのはこのためだ。