ジャパネットの事業承継 親子が衝突したら距離を120キロ離す
上司と部下には距離感が必要
1.後継者に別会社を任せる。 2.先代が得意でない分野を後継者に任せる。 3.先代と後継者が物理的に離れる。 (例えば、距離にして120~130キロメートルほど) 星野氏:ファミリービジネスでは、うまく事業承継できていないケースがあまりに多いので、うまく承継できているケースを研究して、うまくいくパターンやノウハウを残していきたいと、私は思っているんです。この3つは、今日の取材の大きな収穫です。 (次回に続く) 【解説・寄稿】 東京大学大学院経済学研究科・柳川範之教授 「上司と部下の距離感」は、あらゆる企業にある課題 星野佳路さんとここ数年、ファミリー企業の研究を一緒にしている。主なテーマはサクセッションプラン(後継者育成計画)であるが、この研究をスタートさせた大きな理由の一つは、ファミリー企業の経営力向上が、今後の日本経済全体の成否に大きく影響する社会課題だと感じるからだ。 ビジネスパーソンの関心は、どうしても大企業に焦点が当たりがちだが、日本経済全体において、地方の中堅中小企業が果たしている役割は大きく、その活性化が、地方創生にとっても、日本経済全体にとっても重要であることに異論を唱える人は少ないだろう。そして、地方の中堅中小企業の中でファミリー企業の占める割合は大きいのだから、その経営力向上に、経済学者としても関心を持たざるを得ない。 そのファミリー企業に、大きな世代交代の波が押し寄せている。世代交代によって、会社が大きく飛躍する場合もあれば、事業が衰退していく場合もある。それ以前に、後継者難、人手不足といわれる中で、どう後継者を見つけるのか、どう育てるのかも大きな課題となっている。 このような研究者としての現状認識が、ファミリー企業の経営者である星野さんの課題意識と重なり、ある種の共同研究につながっている。この連載では、ファミリー企業の事業承継に焦点を当て、事例を集め、ポイントを深堀りしていきたいと考えている。 経営人材をどう選び、どう育てるか? もう一つの重要な視点は、ファミリー企業に限らず、より幅広い範囲の企業にとって、今や事業承継、後継者育成が、かなり重要な経営課題になっているという点だろう。現代のコーポレートガバナンス(企業統治)の構造の中では、かなり透明性高く、後継者の育成・選抜を行っていくことが求められるようになっている。しかし、経営を担う人材をどう育成していくのか、その後、どのようなプロセスで経験を積ませて、どのタイミングでバトンタッチをしていけばよいのか等は、なかなか難しい判断であることも事実であろう。 その面で、ファミリー企業という特殊な環境ではあるものの、今回の対談のように、現実にあった事業承継について、当事者の感情も交えて詳細な事実関係が分かる突っ込んだケーススタディーは、多くの企業の方々にとって、サクセッションプランを考える上で、重要な情報提供になるのではないだろうか。 事業承継の様々な課題の中でも、星野さんがこだわっているポイントは、親子関係だと感じる。親子だからこそ、伝わる、伝えられるものがある半面、親子関係のこじれが経営にマイナスとなる面があり、それをどうコントロールしていくか。通常の経営学の教科書には出てこない重要な問題だ。 ファミリー企業でなければ、そこまで人間関係が経営を左右することはないかもしれないが、上司と部下という師弟関係は、やはり感情面も含めた濃い人間関係である場合も多い。この対談で出てきた「適度な距離」といった対立を和らげる方法論など、ファミリー企業における親子関係の議論から、得られる示唆は多いに違いない。
星野 佳路、柳川 範之