帰国子女でもなく、海外留学もわずか1年の佐々木真理絵はなぜスポーツ通訳者の仕事に就けたのか?
【練習後のプライベートレッスン】 その後、佐々木はバレーボールのVリーグ(現・SVリーグ)、パナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)に移ることになった。前職でスポーツの現場を踏んでいるとはいえ、バレーボールは未経験。特に、試合中の通訳は簡単ではなかった。 「タイムアウト中に出される外国人コーチの指示をどう伝えていいのかわからない。時間がものすごく限られているから優先順位をつけないといけないんですが、はじめはそれができずに何も言えませんでした。バレーボールの専門用語も、どのタイミングで入っていいかもわからない......」 言葉はわかっていても、競技を知らないと通訳できないことに佐々木はあらためて気づいた。 「練習が終わってから、プライベートレッスンを毎日受けることになりました。『今日の練習の意図は?』とか、『あの指示の意味は?』とか、日本人のコーチ陣にも外国人コーチにも細かく聞きました。とにかく、自分が知りたいこと、気になることは聞くしかありませんでした」 佐々木は2年間、これを繰り返した。 「少しずつ、少しずつバレーボールの知識も増えて、その時、その時に伝えなければいけないことを的確に言えるようになりました」 佐々木は現在、フリーランスの通訳者として、どこの組織にも所属することなく活動している。 「私は26歳でスポーツ業界に入り、通訳としては11年目になりました。フリーランスの通訳者として、女子バスケットの日本代表に携わったり、ラグビーやサッカーなどにも関わったりしながらも、自分の英語力に自信がないから『もっと勉強しなきゃ』という気持ちが常にあります。そのチームや競技によってカルチャーも違いますし」 競技が違えば選手たちの気質も変わるし、指導者次第でチームの形も変化する。 「勝手な固定観念を持っていると、それが邪魔することもあります。うまくコミュニケーションが取れなかったり、よかれと思ってやったことが裏目に出たり。通訳の仕事をすればするほど、『自分がわかっていないこと』に気づきます。英語力についてもそうで、言い回しが変わっていくし、人によって言い方はさまざま」