読書のプロ・鴻巣友季子がおすすめ「2024年必読の21作品」を一挙紹介します!
年末ジャンボ書評、つづけて後編です。 【前編はこちら】→「年末年始に一気読みしたい!本の目利き・鴻巣友季子が激賞する2024年の小説ベスト21作」
海外で読まれる日本語文学
年末ジャンボおすすめ書評の後編をお届けしましょう! 日本語文学が大いに海外に紹介されています。今年は、たとえば英米では以下のような作品が英訳出版され、話題になったり賞を受けたりしています。小川洋子『ミーナの行進』、川上弘美『三度目の恋』、多和田葉子『パウル・ツェランと中国の天使』、柚木麻子『BUTTER』、阿部和重『ミステリアスセッティング』、田中慎弥『共喰い』、王谷晶『ババヤガの夜』、木村紅美『あなたに安全な人』、村上春樹『街とその不確かな壁』などなど。 今年は冬と夏の二度アメリカで書店視察をしていますが、目立つ位置に積まれ話題をさらっている日本語文学は多いようです。とくに柚木麻子は目下、イギリスでブレイク中。日本語作家の海外での活躍については、「好書好日」というサイトの連載「鴻巣友季子の文学潮流」にも書きましたので、よかったらごらんください。 国内の動きとしては、やはり近年の小説は「詩人」「SF」「批評性」といった要素がキーになっている観があります。詩人の小説としては、井戸川射子『無形』、向坂くじら『いなくなくならなくならないで』(芥川賞候補)、山崎修平「網野は変わらない」(「新潮」2024年8月号)などが発表されました。 SF畑出身で存在感を放っている一人は小川哲でしょうか。「小川哲出現以前、以後」という文学観があると聞きます。今年も短編集『スメラミシング』(河出書房新社)で強いインパクトを残しました。 また、2020年代は「批評的小説」の興隆を感じます。先行する書物や文献を引用・下敷にしながら、そこに新たな世界を構築している小説です。今年は、(とくに気鋭の書き手を挙げると)、市川沙央「オフィーリア23号」(「文學界」2024年5月号)、豊永浩平『月ぬ走いや、馬ぬ走い』(講談社)、鈴木結生「ゲーテはすべてを言った」(「小説トリッパー」2024年秋季号)などが非常に印象的でした。また、町屋良平の批評家としての活動「小説の死後――(にも書かれる散文のために)――」にも大いに注目しています。