フィリピン移住4ヶ月で貯金が消えた…けど「不安がなくなった」 阪神・淡路大震災の経験を経て辿り着いた“幸せの場所”
移住して貯金ゼロに
カオハガン島に移住後は宿泊施設の手伝いや、観光客へのヨガレッスンをしていた嘉恵さん。4ヶ月ほどたったある日、スタッフと共にセブ島の山に木材を集めに行った。その直後に発熱し、デング熱にかかっていることがわかり、セブ島の病院に入院した。 「入院したら、持ってきたお金が全部支払いに消えてしまったんです」 雑貨店の退職金は、ヨガ留学や自身のスタジオを開くための資金に使い、残りは10万円ほどだった。その全てを入院費に使い、貯金が底をついてしまったという。この話をとても明るく話す嘉恵さんの理由はこうだ。 「カオハガンの人は貯金もないし、これでみんなと同じ地点に立てた気がしました」 カオハガン島の生活を始めて、島民と同じ目線で生活したいと望んでいたので、貯金がなくなったことに不安は感じなかったという。島民はお金がなくても、いつも穏やかで幸せに満ちた暮らしをしていたからだ。 移住して1年後の2016年、漁師の島民と結婚し、現在は3人の母となった。バレンタインデーにたくさんのウニを持ってきてくれたご主人を、野生的で生活力があると話す。子育ては島のお母さんたちが教えてくれるので心強い。
他人との境界線
取材中「チップってどのくらいあげますか?」と嘉恵さんから質問されてドキッとした。そして1つのエピソードを話してくれた。 「この島で現金はほとんど使わない生活ですが、ある日、翌日の朝食に必要な金額だけ持っていたことがあって。ちょうど夕飯の用意をしていたら、違う島から歌うたいの出稼ぎの人が、家に来たんです。夫にチップを渡してくれるよう頼んだのですが、持っていた3分の1も渡していて(笑)」 嘉恵さんはチップの金額がとても多いことに驚いた。島で育ったご主人をはじめ、カオハガン島の人々にとって「自分だけのもの」という考えはない。シェアすることが当然の文化なので、今はご主人の行動に納得できると話す。 「日本の学校では、自分の持ち物に名前を書くよう、教えられますよね。でもここの人は『あなたは私』という精神なので、物に名前は書きません。この島では「私のものは君のもの」ということなのです。島民は他者との境界線が極めて低いのです。私もまだまだ境界線をなくしていこうと訓練してるところですが」