料金の大幅な値上げも? 災害に弱く劣化も進む。どうする日本の水道 #災害に備える
一方で『小規模分散型』は、なにかあっても範囲が限定的で、復旧も比較的早い。その上、様々な手段があります。たとえば、従来の水インフラの原水は、河川水や湧水、地下水ですが、小規模システムでは、雨水や排水を利用する技術もあります。原水だけでなく、浄水方法や配水方法、管理方法など、水を利用できるまでのプロセスごとに、様々な選択肢があり、その組み合わせ次第で、従来の水インフラよりもコストを下げられる可能性もあります。こうした選択肢を知り、ライフスタイルや防災の観点から、自分たちにとって最適な手段や組み合わせを選ぶことも可能なのではないでしょうか」 地域ごとに最適な手段を選ぶことで、水道料金の値上がりを抑制できる可能性もあるということだ。
災害対策だけでなく、水道財政の改善の一手へ。日常給水も期待される小規模分散型水循環システム
大規模な水道インフラに頼らない暮らしを実現する、小規模分散型の仕組みにはどのようなものがあるのか。今回の能登半島地震において活躍した水システムの一つに、WOTA株式会社の水循環型シャワー「WOTA BOX」と水循環型手洗いスタンド「WOSH」がある。排水を再生・循環利用するシステムで、提供した数は合計で300台以上にものぼると同社執行役員の越智浩樹氏は語る。
越智氏「『WOTA BOX』も『WOSH』も、使った水をフィルターや紫外線、塩素などにより安全な水質基準まで処理することで、98%以上の水を再生し、循環利用できるシステムです。 能登半島支援の特徴の一つは、すべての設置場所で自律運用型の仕組みを展開したこと。断水が広域かつ長期化することが予想される中、避難所の利用者に自ら運用していただくことで、各避難所への展開スピードを上げ、持続可能な支援につながると考えました。フィルター交換などのメンテナンスは専門的な能力や知識を必要とせず簡単に行うことができ、設置避難所で生活している中学生が自ら運用に協力してくれるなど、多くの方々の協力を得て支援を続けています」 1月4日から現地での提供を始め(協力会社含む)、同月末には能登半島全域をカバーしたというWOTA。断水地域でいち早く生活用水の基盤を構築した。災害時に必要となる水と聞くと、まず飲み水をイメージするのではないだろうか。実は、長期の避難において最も大きな課題となるのは、シャワーやトイレ、手洗い、洗濯等に必要な生活用水だという。 越智氏「飲用水は物資として迅速に十分な量が届いていましたが、生活用水が圧倒的に足りない。例えばシャワーは1回あたり50リットル使うと言われています。100人の避難者がいれば、シャワーだけでも1日5000リットルの水が必要になる計算です。使った水を再生循環利用できるシャワーは、100リットルの水で約100人がシャワーを浴びられるため、限られた水量でも多くの方に入浴を提供することができました。 また、生活用水は日々の生活や衛生だけでなく、精神面でも重要な役割を果たします。シャワーを浴びたり手を洗ったりできないことは大きなストレスとなり、手洗いスタンドを設置するだけでも避難所の方々から拍手が起きるほどでした。自衛隊が提供する集団風呂は非常に重要ですが、生理中の方や要介護者には利用が難しい場合があります。そのため、各避難所ごとに設置が可能で、プライベート空間となる個室シャワーは、被災地の方々にとって必要であり、衛生面だけでなく精神面でも安心をご提供できると考えています」 暮らしや衛生、精神面でも大きな支えとなる生活用水。どこでも水がある日常がどれほど私たちに欠かせないものか、改めて思い知らされる。一方で、断水時にはただ水さえ用意できればいいというわけではない。 越智氏「断水時に生活用水をすぐに使うためには、十分な水量、利用設備、排水処理がそろっていなければなりません。飲み水の数十倍にもなる量を用意できるか、小学校などの避難所でも利用できるか、利用した後の排水を処理できるか。この全ての要素を備えて初めて、生活用水を供給することができます」 WOTAでは、災害時だけでなく、日常給水における水道財政改善策として住宅向け「小規模分散型水循環システム」の展開を複数の自治体で始めている。人口減少が加速し、老朽化した水道の更新投資が困難になってくる過疎地域や、水資源に乏しく給水コストが非常に高くなる島嶼地域を中心に、愛媛県や東京都で水循環システムを実際に設置し、一般の住民が生活する社会実証を2023年から行っており、2024年度は広島県や他の自治体でも展開を拡張させる予定だ。使った水をその場で再生循環利用することで、大規模な水処理設備や水道管などの建設費用を抑制し、水道事業における赤字の改善が期待されている。