【脅威】南海トラフ巨大地震でも発生する恐れ 東日本大震災で街を飲み込んだ「黒い津波」の正体を検証
■“黒い津波”と水を比較 衝撃がより大きく
そのうえで、有川教授はこの“黒い津波”の成分を再現。構造物にぶつかった時の水との違いを比べてみることにしました。画像を見比べると明らかなように、水の場合はなめらかに流れるように進むため、壁にぶつかるときの角度は小さくなります。
一方、黒い津波がぶつかる時は、波の角度が大きくなっています。これは土砂が含まれているため、波の下の部分で地面との抵抗が生じる一方で、上の部分は抵抗が小さいために後ろから来た波が乗りあげて、波が立ち上がる形になるからだということです。結果として、“黒い津波”の方が構造物に当たる面積が大きくなり、衝撃の力が大きくなります。 中央大学・有川太郎教授 「イメージしやすいのはプールで飛び込んだ際に“腹打ち”という現象がありますよね。指先から飛び込むと、スムーズに入水ができますが、お腹などが一気に水面に当たると痛いという。“黒い津波”の場合、水面が立ってきて、一瞬で当たってしまうので、衝撃力が大きくなるということが起こるのです」
■“黒い津波”のもうひとつの特徴「浮力」
さらに、有川教授が指摘するのが、“黒い津波”のもうひとつの特徴「浮力」です。少なくとも、水より10%ほど重いため、その分、建物を浮かせる力が大きくなるということです。 実際、東日本大震災の発災時の映像では、住宅や車など重いものが簡単に流されていく様子が残っています。高さが2メートルもあれば、木造家屋は簡単に浮いて流されてしまうといいます。流されては次へと、次々にがれきを巻き込みながら進んでいくことで、破壊力が増していったと考えられています。
■大柄な男性記者でさえ一瞬で…津波の威力の脅威
津波注意報は、予想される津波の高さの最大波が高いところで、0.2メートル以上、1メートル以下の時に発表されます。0.2メートル、つまり20センチの津波と聞いて、どんなイメージを持ちますか。 記者の私(小川)はふと疑問に思いました。「実際の津波の威力はどんなものなのだろうか」 そこで、有川教授の監修のもと、津波の威力を疑似的に体験してみることにしました。中央大学の後楽園キャンパスの地下にある研究施設を訪ねると、そこには長さ10メートル、高さ2メートル、幅1メートルの大きな水槽がありました。 私(小川)は、高校までサッカー部で、社会人になってもしばらくは社会人チームなどでフットサルをしてきました。現在も週に1~2回はジムに通っています。身長180センチ、体重90キロと大柄で、体力にも自信はあります。 まずは、“津波”の高さをひざ下程度、高さにして、わずか30センチほどで実験してみました。水の先端の力が強く、最初の数秒で数十センチほど後ろに流されてしまいました。しかし、そこからは何か物につかまっていれば、その場にとどまっていることができました。ただし、前や横など自分が思う方向に移動することはできず、その場にとどまることが精一杯でした。今回は水が来るとわかった状態でしたが、身構えずに遭遇していたら流されていたと思います。 中央大学・有川太郎教授 「高さ30センチでも、水の力は40~50キロほどになります。これまで同様の実験をしたことがありますが、女性の方や小柄な男性の方はこの高さで流されている場面を幾度となく見てきました」