【脅威】南海トラフ巨大地震でも発生する恐れ 東日本大震災で街を飲み込んだ「黒い津波」の正体を検証
■“黒い津波”は南海トラフ巨大地震でも発生のおそれ
実は南海トラフ巨大地震が起きた場合、“黒い津波”が発生するリスクが高いと複数の専門家が指摘するのが「大阪湾」です。 どういうことなのか確かめるために、我々は許可を得て、実際に海に潜ることにしました。まだ寒い2月下旬、水温はわずか11度ほど。カメラマンらは全身にカイロを貼りドライスーツを着て、大阪湾に潜ります。
すると、そこには意外な光景が広がっていました。大阪湾は事前の想定よりも透明度が高く、海中の様子をクリアに見ることができました。一面に広がる海藻に、魚やクラゲも普通に泳いでいて、ごくごく普通の海の光景が広がっていました。 ただ、潜っていくと、カメラマンはあることに気づきました。 河越幸平カメラマン 「海底をすくってみると、下から粘土質の泥のようなものが現れてきました。非常に粘度が高くて、どろっとした触り心地がする」 表に見えていた海藻などのすぐ下に、撮影した場所では少なくとも40センチほどの泥の層が存在していました。大阪湾は淀川や大和川といった大きな河川から土砂が運ばれてくる一方で、「閉鎖性海域」といって、海水の動きが少ない場所が多く、土砂などがたまりやすい場所になっています。また、湾が入り組み、狭くなっている場所もあって、“黒い津波”が発生する条件を満たしていることを実感しました。
■国の被害想定に、土砂の移動による“黒い津波”は含まれず
さらに、実は、国や都道府県がこれまでに公表している南海トラフ巨大地震の浸水想定などに、この海底の土砂の移動による“黒い津波”は含まれていません。純粋に海水の動きなどだけで計算されています。 そのため、実際には土砂の分だけ、津波の堆積が増して、早く津波が訪れる場所や浸水が深くなる場所も出る可能性があるのです。特に大阪府は海や川の近くに都市化した街が広がっています。“黒い津波”が発生した場合、その被害ははかりしれません。
■取材を終えて
13年前のあの日。手を掴みながらも、目の前で最愛の夫が“黒い津波”に流された菅原文子さん。取材中にお話ししてくださった言葉が今も強く記者の心に残っています。 「早く逃げなかったというあの日の後悔が今も頭から離れることはないです。津波の威力というものをわかっていたら、自宅に残るということはせずに、もう一目散に高台に逃げていました。(義理の)じいちゃんもばあちゃんも失わなかったし、主人も多分助かっていたと思います」 「私たちはまだ震災から13年ですから、生々しくまざまざとあの日の記憶があります。だから、災害に遭うというのがどういうことなのか、伝えなくてはいけない。そして、今、本当に苦しい悲しい思いをしている能登の皆さんから目をそらさずに、自分たちが津波とか大きな地震に襲われたらどうなるのかというのを学べることはいっぱいあるので、本当に学んでほしいと思います」 元日には能登半島地震がありました。本当に地震はいつどこで起こるかわかりません。今回の取材を通して、津波の前では人は無力であること、1分1秒のほんのわずかな差が生死を分ける厳しい現実を痛感しました。 「地震が起きたらどうするのか」この記事をきっかけに、家族や友人と地震への備えについて、少しでも話してもらえたらと思います。