【脅威】南海トラフ巨大地震でも発生する恐れ 東日本大震災で街を飲み込んだ「黒い津波」の正体を検証
■偶然が重なり採取・保管された“黒い津波”
次に私たちが訪ねたのは、同じく気仙沼市に住んでいる上田克郎さん(62)です。 上田さんは震災から一夜明け、海沿いに向かう途中で偶然に漁業用の青い大型コンテナを見つけました。 上田克郎さん 「中をのぞいたら、水が入っていた。底の方が真っ黒くなっていて、ちょっと気になったので、落ちていた石を中に入れたんですよ。そうしたら、煙というか、細かい粒子なんでしょうけど、底の泥が湧きあがってきたので、かき混ぜてペットボトルに採取したんです」 上田さんのとっさの行動によって、“黒い津波”は4リットルのペットボトルに入れられて保管されることになり、今回私たちが目にすることができました。
複数の専門家に聞くと、上田さんのケース以前は、津波を採取するという発想はなかったと言います。というのも、被災地に“黒い水たまり”があったとして、少しでも時間が経ってしまうと、それが津波なのか、ただの泥水かを見分けることが難しいからです。 しかし、この上田さんが採取したものは、発災の翌日、かつコンテナの中に残されていたという状況から、津波の可能性が極めて高く、とても珍しいものだということです。
私たちの中では、この取材の時まで「津波=海水」というイメージがありました。そのため、見せてもらった時の色のギャップに驚きました。また、時間の経過とともにその姿は変わり、水と黒い沈殿物にゆっくりと分離し「不思議な液体だな」と思いました。
■“黒い津波”を分析した専門家は…「驚いた」
そして、上田さんから提供を受けて、この“黒い津波”を分析したのが、津波研究の専門家である中央大学の有川太郎教授です。 中央大学・有川太郎教授 「“黒いな”というのは驚いた。実際に見て、こんなに粒径が細かいものが入っているのかと驚きました。そして、実際に測ってみると、砂粒みたいなものも結構混じっていた」 有川教授が分析したところ、黒い津波は通常の海水よりも、10%程度重いことがわかりました。つまり、この分だけ土砂が含まれているということです。 そして、土砂の粒径の中央値は6.74マイクロメートルと、多くは「シルト」に分類されるような細かいものであったといいます。「シルト」とは、粒子が砂と粘土の中間的な大きさを持つものを指します。1マイクロメートルは1ミリメートルの1000分の1なので、いかに細かい粒子が“黒い津波”の中に含まれていたかがわかります。