これは「物質から生命が生まれる瞬間」かもしれない…地球生命に絶対必要なアミノ酸が、なんと「わずか数日」でできてしまった「衝撃の実験」
実験室の「ミニ原始地球」
ミラーはユーリーとともに実験装置をデザインし、図「ミラーの放電実験装置」のような装置を組み立てました。左下の小さいフラスコは原始の海を模したもので、これを加熱して沸騰させると水蒸気が生じます。水蒸気は図の左側のチューブを通って上昇し、右上のフラスコでメタン・アンモニア・水素のガスと混じります。 このフラスコには電極が取りつけられていて、テスラコイルという高電圧を発生させる装置を用いて、電極から火花を飛ばします。これは火花放電とよばれ、雷を模したものです。また、右側のチューブは冷却器によって冷やされていて、水蒸気が通ると液体の水となり、放電によってメタンやアンモニアから生成したものとともに、左下のフラスコに戻ります。これは雨に相当します。 このようにして放電を続けたところ、2日目には、右上のフラスコにはタール状のものが付着し、左下のフラスコ中の水は黄色くなってきました。さらに放電を続けると、色はさらに濃くなりました。そこで、黄色くなった水を取り出してペーパークロマトグラフィーという方法で分析すると、グリシンなど、いくつかのアミノ酸が生成していることがわかったのです。 ミラーはユーリーの助力のもと、この結果を論文にして『サイエンス』誌に投稿しました。ユーリーは論文の共著者になりませんでした。もし、ノーベル賞受賞者である自分の名前が入っていると、自分だけが脚光を浴びると考えたためです。論文は『サイエンス』誌の1953年5月15日号に掲載されました。 この論文は多くの科学者の興味をひきました。化学進化の実験が数日でできるなんて、誰も考えていなかったからです。 次回は、この発見に沸いた科学界と、ミラーの実験によってもたらされた「光と影」を追っていきましょう。 生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか 生命はどこから生命なのか? 非生命と何が違うのか? 生命科学究極のテーマに、アストロバイオロジーの先駆者が迫る!
小林 憲正