TVドラマ撮影の舞台裏 「食べられないケーキ」に「記録さん」
普段、何気なく見ているテレビドラマ。しかしその撮影現場には、われわれ視聴者が知らない世界がたくさんある。例えば、ドラマに頻繁に登場する食事シーンはどのように撮影されているのだろうか。舞台裏を探った。
■同じシーンを何度でも
あるテレビドラマの中で、主人公の男が高級レストランで彼女の誕生日をお祝いするシーンがあったとする。 ――まずはシャンパンで乾杯だ。グラスを重ねた後、男はごくりとシャンパンを飲み干す。 このシャンパン。ジンジャーエールなどの炭酸飲料で代用することが多い。その後のシーンで長セリフがあるのに酔っては困る、というのもあるし、俳優がお酒を飲めない場合もある。だが何よりも、ドラマの撮影は視聴者が思っているよりも、一つのシーンを何回も、いろんなパターンで撮影するのだ。シーンによっては何十回と撮る。だから、その度に本物のシャンパンを飲み干していては演技ができなくなってしまう。 またこうした場合、シャンパンを飲み干すカットだけを撮影するわけではない。ドラマのカット割りは非常に細かいので、シャンパンを注ぐシーンやグラスを持つ指のアップなどのカットも必要になる。この時は炭酸飲料を使用しない。シャンパンは気泡が非常に細かいのに比べ、炭酸飲料の気泡は大きいため、シャンパンではないことがすぐに分かってしまうからだ。そのため、アップ撮影用には本物のシャンパンを入れたグラスを用意する。 アルコール絡みのシーンでは別の飲料で代用することが多い。例えば赤ワインはぶどうジュース、白ワインはりんごジュース、日本酒は水といった具合に。また、飲み物は冷えた状態ではなく少し温めの状態で使う。冷たすぎるとグラスにすぐ水滴がついてしまうからだ。 ――乾杯の後は、メインディッシュのステーキが出てきた。焼きたてのステーキを食べながら、二人はすっかりほろ酔いで会話も弾む。 このシーン。「あること」に気をつけなければならない。それは「音」だ。ステーキを少しの音も立てずに切ることは難しい。しかしセリフを収録するため、俳優の胸元には高感度の集音マイクがつけられているので、ちょっとした微音でも拾ってしまう。ではどうするか。あらかじめカットしたステーキを用意するのだ。また、会話をしながら食べる場合、口に入れた肉が大きすぎると次のセリフに影響するため、肉を一口大に細かくカットする場合もある。俳優は、切ったふりをして口に運び、セリフをしゃべるというわけだ。ただ、あらかじめ切れ目が入っていることがバレてしまうようなアップのシーンでは、別にアップ撮影用に用意したステーキを使う。 ――そして最後は、彼女のためにサプライズで用意したバースデーケーキが登場した。それを見て感激した彼女は思わず手を口で覆い、目を潤ませる。 このシーン。基本的にこのケーキは食べられない。撮影現場はとてもたくさんの照明を使用するため、非常に暑い。また撮影は、俳優の位置、カメラの位置、照明の位置など、さまざまな条件を変えながら、たくさんのカットを撮るため、一つのシーンを撮るのに非常に時間がかかる。だから撮影用に、ライトの熱に強くてクリームが崩れないケーキを作り、それで撮影するのだ。もちろん、俳優が実際に食べるシーンでは本物のケーキを用意するし、アップ撮影用には細部まで作りこんだケーキを用意する。