TVドラマ撮影の舞台裏 「食べられないケーキ」に「記録さん」
■What is 記録さん?
ドラマは、必ずしも脚本の時系列通りに撮影できるわけではない。俳優のスケジュールがどうしても合わない場合もあれば、天候などさまざまな撮影条件の影響もある。 そうなると例えば、前述の高級レストランのシーンの撮影の場合、ステーキを食べるシーンの後に、シャンパンで乾杯するシーンを撮り、その後日、ケーキを食べるシーンを撮影する、という順番になる可能性もある。また、一つのシーンを日をまたいで撮影することもある。 このような場合、例えばシャンパンを持つ手が撮影日によってバラバラでは、後で編集した際、映像上の「そご」が出てしまう。撮影しているうちにグラスに水滴がつき、カットによって水滴がついたり、ついていなかったりなどの「そご」が生まれてしまうこともある。そうした“事故”を防ぐため、ドラマ撮影の現場には、脚本上、映像上の「つじつま」をしっかり管理するスタッフがいる。それが「記録」担当のスタッフ“記録さん”だ。 基本的には監督の隣にいて、ドラマの尺など時間の管理をするのが仕事だが、「記録」担当が目を光らせる対象は多岐にわたる。 例えば、飲み物を飲みながら会話するシーンでは、何回も撮影するうちに、飲み物のカサの高さが変わらないようにチェック。一日のうちで衣装をシーンごとに何回も着替える場合、間違えて前日のシーンの服を着て撮影しないようにしたり、ピアスの種類、カバンを持っていた手は右か左か、部屋の奥のドアは開いていたのか閉まっていたのか、など、とにかく幅広い。 泥棒が部屋を荒らした、というようなシーンでは、どんな風に荒らされていたかを細かく把握して、撮影日ごとに荒れ具合が違わないようにする。「荒らされた後」から「荒らされる前」の順番で撮影するときは、「逆再生的」に部屋の調度品などをどう配置するか、なども管理する。また乱闘シーンでは、血ノリがどうついていたか、なども把握しておく必要がある。「何日も経過していないのにその青あざはおかしい」などと指摘して整合性を保つこともある。 また、役者が身につける腕時計や、背景の壁掛け時計などは、劇中の設定時間にすべてそろえる。そうした際の基準となる時間をいわば“時報”のように管理して現場に伝える。そういった意味で、劇中で流れる「時間」を管理する仕事、ともいえる。
※ ※ ※ 今回の取材にはフジテレビ「オリエント急行殺人事件(1月11日・12日午後9時放送)」などを担当した同局ドラマ制作スタッフに協力してもらった。テレビドラマの撮影は、1日みっちり撮影しても、たった6~7分程度のカットしか撮影できないという。記事中でも触れた通り、同じシーンをいろんなパターンで何度も撮影するので、例えば食事のシーンでは、一つのシーンに10食分は用意するそうだ。俳優や監督だけではなく、こうしたさまざまな裏方スタッフの働きがあって、テレビドラマのクオリティが担保されているのだと感じた。