レッドブル&HRC密着総集編:追われる側から追う側に。窮地を救ったフェルスタッペンが4連覇も、提携最終年は技術面の課題解決が不可欠
「苦境に立たされたとき、人は試される」という言葉がある。2024年のレッドブルとホンダRBPTの戦いを振り返るとき、その言葉が反芻する。 【写真】(写真左から)山本涼太/RB・ローソン担当メカニック、八頭司大智/レッドブル・ペレス担当メカニック、中川博行/RB・角田担当PUエンジニア、吉野誠/レッドブル・HRCチーフメカニック、法原淳/RB・HRCチーフメカニック、折原伸太郎/トラックサイドゼネラルマネージャー、久保哲宏/RB・ローソン担当システムエンジニア 22戦21勝とシーズンを席巻した2023年から1年。2024年のレッドブルとホンダRBPTが王者らしいレースをしていたのは、わずか5戦だけだった。開幕戦のバーレーンGPから第5戦中国GPでレッドブル・ホンダRBPTは4勝を挙げ、好調な滑り出しを見せていた。しかし、6戦目のマイアミGPでマクラーレンがアップデートに成功すると、立場は逆転。追われる側から、最速マシンを持つマクラーレンを追う側に回ることとなった。 それでもしばらくの間は、相手のミスやレース展開にも恵まれて勝運に恵まれることもあったが、マシンの開発が行き詰まったオーストリアGP以降は、表彰台の頂点に立つことができないレースが続いた。 ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)は、最も辛かったのは9月上旬のイタリアGPだったと振り返る。 「クルマの調子もよくなく、成績も悪かったあのレースから、ドライバーズチャンピオン争いでも追いつかれそうな雰囲気になり、チーム内でも『チャンスを取りこぼすようなことがあれば、追いつかれてしまうぞ』と余裕がなくなり始めました」 しかも、その時点でチャンピオンシップリーダーのマックス・フェルスタッペンは2基のエンジン(ICE)にダメージを負っていた。ひとつはオーストラリアGPのフリー走行で縁石に乗った際に受けた1基目の物理的なダメージで、もうひとつはカナダGPのフリー走行中の2基目の高電圧のトラブルだった。 オーストラリアGPではRBのダニエル・リカルドの1基目のパワーユニットも同様に縁石にヒットした際にダメージを受けていた。HRCはフェルスタッペンの2基目のエンジンはすぐにプールから外して、7月下旬のベルギーGPに5基目を入れてペナルティを消化していたが、1基目に関してはしばらくプールにとどめていた。 しかし、リカルドの1基目のパワーユニットを分解したところ、使用不可能なほどのダメージを受けていることを確認。フェルスタッペンの1基目のエンジンもプールには入っていたものの、使用することはなかった。つまり、どこかで6基目を投入しなければならない状況だった。 そのため、レッドブル側が苦戦の理由をHRCが開発したパワーユニットの信頼性不足のせいにしても不思議はなかった。 だが、レッドブルのスタッフがホンダへの不平・不満をメディアを使って言い放つことはなかった。それよりも、どこで6基目を入れるのがベストかをHRCと真剣に議論。果たして、彼らが下した結論は第21戦サンパウロGPだった。サンパウロGPはスプリント・フォーマットで開催されるが、ペナルティ(5グリッド降格)を科せられるのは日曜日の決勝レースのみ。土曜日のスプリントには適用されないため、フレッシュエンジンを投入してもデメリットがなかった。 ところが、スプリント後に行われるはずだった土曜日の予選は雨のために日曜日に順延。さらに日曜日の朝に行われた予選でフェルスタッペンは他車のアクシデントで自身のアタックが無効となり、さらにその直後に赤旗が出たことで予選12番手に終わり、決勝レースは17番手からのスタートとなった。 「ここでペナルティを取って、6基目のエンジンを入れた作戦は失敗に終わるかもしれない」 予選直後、折原GMが悔しがるのも無理はなかった。ところが、この状況を打開したのがフェルスタッペンだった。17番手からスタートしたフェルスタッペンは雨のレースで異次元の走りを披露。赤旗中断が出るタイミングにも恵まれて、大逆転優勝。それはレッドブルとHRCの窮地を救う神の走りだった。 最終戦アブダビGPを終えて、2024年シーズン最後のメディアとの質疑応答で、クリスチャン・ホーナー代表はフェルスタッペンやチームスタッフ、そしてさまざまなサポート企業に感謝した後、ホンダに対しても、こう語った。 「ホンダの安定性と貢献にも感謝の意を表したい」 2024年にマックス・フェルスタッペンがドライバーズチャンピオンを獲得できたのは、厳しい状況に置かれても、レッドブルとHRCの現場スタッフがお互いをリスペクトし、一枚岩となって戦うことができたからだったからにほかならない。 ただし、その苦しい状況は技術的な問題によって生み出されたことも忘れてはならない。最終戦のアブダビGPでは終盤戦に何度か見直されたと思っていた技術的な課題がまだ完全に解決されていないことが露呈した。 レッドブルとHRCのパートナーシップ最終年となる2025年。その関係を有終の美で飾ることができるのかどうかは、2025年を戦うRB21の出来にかかっている。 [オートスポーツweb 2025年01月02日]