ヒャダイン、タイパ重視に感じる「疲れ」 音楽活動でも影響を実感
国語辞典などで知られる三省堂が発表した「今年の新語2022」の大賞に「タイパ」が選ばれた。「タイパ」とはタイムパフォーマンスの略で、費やした時間に対する満足度のこととされ、例えば「タイパ」を求めるために音楽のサビだけ聴いたり、動画を倍速で視聴したりする傾向があげられる。音楽クリエイターのヒャダインさんは、自身の音楽活動やSNSなどで「タイパ重視の時代を実感している」という。それでも「“愛おしい無駄”から得られる気づきもある」と語るヒャダインさんに、タイパ重視の世の中に対する考えを聞いた。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
音楽もタイパ重視の時代に「でも、すぐに答えを求めるのはもったいない」
――アーティストの楽曲の発表の場がCDリリースだけでなく、TikTokやYouTubeなどさまざまな媒体に広がっています。このような変化によってヒャダインさんがメリットだと感じる点はありますか? ヒャダイン: 今の時代、見たいMVがあればすぐ見られるし、聴きたい曲があればすぐ聴ける。昔だったらレコードやCDを買わないといけなかったし、MVも何かしらの専門チャンネルでないと見られませんでした。今はありえないぐらいのエンタメの量でいろんな選択肢も増えすぎて、正直ちょっと選びきれなくて辟易します。 ただ、ショート動画とかTikTokなどで、短時間で視聴することでエンタメの摂取量は増えますよね。しかもSNS側からどんどんコンテンツを提案してくれる。それはありがたいなと思います。ショート動画とかTikTokのメリットだと感じますね。 ――逆にデメリットだなと思う部分はあるのでしょうか? ヒャダイン: ありきたりなことかもしれませんが、印象に残りにくいっていうのがデメリットだと感じます。昔ほど一つひとつのコンテンツがちゃんと入ってこなくなったというか。消費もその分早くなる感じがします。ただ、その感覚が自分の老いによるものなのか、世の中の皆さんに共通しているものなのかはわかりません。 ――TikTokやショート動画などの台頭で、短いサウンドでいかに印象付けるかということが、これまで以上に問われる傾向にあります。このような変化が音楽に与えている影響を実感されていますか? ヒャダイン: もう感じざるを得ないですね。以前私が投稿していた「ニコニコ動画」でも、イントロが冗長だったり、サビまで時間があったりすると、コメント数が少なかったり、再生数が伸びなかったりしていたんです。でも、最初から起爆剤になるようなものをポンと置くと、いきなりバーンとコメントが盛り上がるんですよね。 自分の作品を振り返ってみると、イントロもなければサビ頭があったり、例えばももいろクローバーZの「行くぜっ!怪盗少女」のようにイントロがあったとしてもラップが入っていたりしています。指示がない限りしっかりイントロを聴かせるという曲作りはやらないかもしれないですね。もちろん伝えたい部分を抜きにしてバズやタイパのみに注視してしまったらスカスカの曲になってしまうので、そこは忘れないようにはしていますが。 ――どうしてこうした「タイパ」重視の傾向が見られるようになったと思いますか? ヒャダイン: やはりネット文化の影響が大きいと思います。ネットってすぐに答えが出るじゃないですか。例えば「中臣鎌足が何年に生まれたのか」とか調べたら5秒でわかります。インスタントに答えがわかることに慣れすぎているので、答えが先延ばしになることが我慢ならないのかなということは感じます。ファスト映画のようなものがでてきてしまったのもそういうことなんだと思います。 ただ、ネットが発達する前からも、長文を要約したり、オーディオで1.5倍速で聴いたりとか、そういった摂取の仕方というのはありましたよね。もともとそういう人たちって長いものが嫌いだったのかなとは思うんです。それで、短いものが出てきたから「やった!」となっているのかなと。 でも、もともと長文を読む能力があるのに短いものに慣れすぎて、新たな世代のデジタルネイティブの人たちの長文を読む能力を失わせているとしたら非常に問題だと思います。そういった部分が日常生活のあらゆるところに出てしまったらもったいない気がします。