地球上で生命ができる確率は「かぎりなくゼロ」なのに、なぜか生命は存在する「謎」…「神頼み」にしない説明は可能か
地球で生命が誕生したことは奇跡なのか、必然なのか
さて、このたび筆者は『生命と非生命のあいだ』という本を出版しました。この本では、ホイルや戸谷が惑星上で生命が誕生するのはきわめて難しいと唱えている一方で、惑星などでの生命の発見を期待する機運が高まっている、そのギャップを埋めることができるのか、ということをテーマとして執筆しました。 この書では、まず生命とは何か、生命はいかに誕生したかについて、古代から今にいたる研究の流れを概観しています。とりわけ近年、地球外にもさまざまな有機物が存在することがわかり、そして、生命誕生のシナリオとして、「RNAワールド」が注目されています。 しかし、RNAワールドをまじめに考えると、どうしても「ホイル・戸谷問題」が浮上します。本当にRNAは地球上で誕生できたのでしょうか。筆者は、それに代わりうるモデルとして、「がらくたワールド」を提案しています。 この2つにかぎらず、これまでにさまざまな生命の起源説が唱えられてきました。では、それらのどれが正しいかを考えるには、何をどのように調べていけばいいのでしょうか。たちはだかる最大の障害は、生命誕生の現場についての情報が、現在の地球上にほとんど残されていないことです。タイムマシンがあったならば、一発で勝敗をつけられるのですが。 しかし、実はタイムマシンはあります。それは「宇宙」というタイムマシンです。生命の誕生、進化のさまざまなステップは、この宇宙のどこかに現在進行形で存在している可能性があります。 生命誕生のプロセスについては、20世紀に現れた「化学進化」という概念が主流になっています。一方で、19世紀頃より「生物進化」の議論が行われてきました。実は化学進化には誤解されている点が多く、正しい理解のためには進化の“先輩”といえる生物進化をみることが参考になるでしょう。 そして最後に、生命と非生命のあいだをどう埋めればよいかを考えます。両者はデジタル的に0と1に区分できるのでしょうか。それとも連続的につながっているのでしょうか。連続的なものには「スペクトラム」という言葉が使われることがありますが、もしかしたら生命においても「生命スペクトラム」という概念が成り立つのでしょうか。 地球で生命が誕生したことを奇跡と考えるか、それとも必然と考えるかは、人それぞれでしょう。本書がみなさんに、この問題についてより深く、より興味を持って考えていただけるための材料を提供できていれば、これ以上の喜びはありません。 生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか 生命はどこから生命なのか? 非生命と何が違うのか? 生命科学究極のテーマに、アストロバイオロジーの先駆者が迫る!
小林 憲正