地球上で生命ができる確率は「かぎりなくゼロ」なのに、なぜか生命は存在する「謎」…「神頼み」にしない説明は可能か
「きわめて難しい」ものがなぜ「ある」のか
近年、東京大学の戸谷友則(1971~)は、いわばホイル説の21世紀版を発表しました。ホイルの時代と比べると、生命の主人公はタンパク質から核酸に移り、宇宙論はビッグバンをさらに進めた「インフレーション宇宙論」に進化しました。 いまでは、生命が誕生するには多数のヌクレオチド(核酸を構成する単位)を結合させたリボ核酸、いわゆるRNAが必要と考えられています。そこから、生命がRNAから始まったとする「RNAワールド仮説」が唱えられているわけですが、条件を満たすRNAをつくるには、ヌクレオチドを少なくとも40個、正しい順番でつなぐ必要があります。 戸谷によれば、それが自然にできる確率を計算すると地球だけではとうてい無理で、10の40乗個ほどの恒星があれば、なんとか偶然にそのようなRNAが1つできるそうです。 銀河系には2000億個ほどの恒星があり、私たちが観測可能な宇宙(私たちから138億光年の範囲)にある銀河は2兆個ほどといわれていますので、恒星の数は4000垓(がい・4×10の23乗)個ほど、惑星も数秭(じょ・10の24乗)個ほど“しか”ありません。とするとたしかに、地球で生命が発生したのは奇跡というしかありません。 ここで戸谷は、インフレーション宇宙論ならではの宇宙の広さを考えることを提案しました。東京大学名誉教授の佐藤勝彦らが唱えたインフレーション理論によると、宇宙は138億年前に光よりも速く急激に膨張(インフレーション)したとされます。私たちには光が138億年かかる距離、つまり138億光年先までしか観測することができませんが、インフレーション理論が正しければ、その外側にも宇宙は広がっていることになります。 戸谷によると、その大きさは私たちに観測可能な宇宙の10の26乗倍以上、体積では10の78乗倍以上と考えられ、そこから計算すると、宇宙全体で、10の100乗個の恒星が存在可能になります。たしかに、それなら生命が誕生する星はごろごろあることになります。 時を隔てた二人の天文学者が唱えた説の共通点は、惑星上で生命が誕生するのはきわめて難しいということです。たしかに、タンパク質や核酸がその構成分子を正しくつながなくては生命にならないという呪縛は、簡単には解けそうもありません。 しかし、その一方ではいま、太陽系内、さらには太陽系外までも、生命探査の機運が急速に高まっていることもたしかです。その原動力となっているのは、惑星などで生命が誕生することは、それほど難しくはないと考える科学者が多数いるという事実でしょう。 このギャップを、私たちはどう埋めればいいのでしょうか。