バレンタイン氏案も浮上する「駐日米大使」の役割とは?
母国に「辛口」な進言も
第2に、大使は母国の利益を代弁しますが、赴任先の国の事情を母国に正しく伝えるのも重要な任務であり、そのため、表面的には母国よりも赴任国を重視していると見える場合もあります。しかし、母国で沸き起こる感情論的なものに流されると危険であり、相手国の正しい理解に基づいた政策を講じることは絶対的に必要です。大使はそのために母国にとって辛口のことでも進言しなければなりません。かつて米国の自動車産業が不況に陥った時にもそのようなことがあったと思います。 主にカーター政権時代の1970年代の後半から10年以上も米国の駐日大使を務めたマイケル・マンスフィールド氏は日本のことを米国に向かって何回も代弁してくれました。たとえば大使の任期中日米間には激しい経済摩擦がありましたが、何とか大事に至らずに収めることができたのは同大使の尽力があったからだと言われています。
政治的な任命もあり得る
第3に、特に米国の場合は、大使の任命に政治的な考慮が強く働くことがあります。例えば、大統領選挙で尽力した人を大使とすることもあります。そういう人たちは能力的には問題ありませんが、プロの外交官ではないので周囲の人がよく補佐する必要があります。言葉の面でも、米国の職業外交官は外国語も堪能ですが、政治任命の大使は外国語が得意でない人が少なくありません。ジョン・ルース元米国大使は東日本大震災の際に米国が積極的に協力するのに尽力しました。オバマ大統領に広島訪問を勧めたことでも有名です。 なお、このような政治任命の大使は先進国に派遣されるのが通例です。相手が難しい国の場合、やはり職業外交官が大使になるようです。日本の場合は気候などの関係で「困難な国(hardship post)」とみなされ、西欧主要国のように大物が派遣されることはまれでしたが、そのような傾向はすでになくなっていると思います。
バレンタイン氏ならいい大使になる?
ボビー・バレンタイン氏は周知のごとく、ロッテ球団の監督を2回務め、合計約7年間日本に滞在したので、野球を通じてですが日本のことをよく経験しました。さらに、米国でメージャーリーグ・チームの監督を務めたのも、また日本チームの監督を2回も務めたのも高い管理能力があったからでした。例えば、選手の起用も巧みで「ボビーマジック」と呼ばれたことは同氏の非凡な能力をよく表していました。 バレンタイン氏は、公職の経験はありませんが、外交経験や日本の政治経済状況の知識などについて周囲の補佐よろしきを得れば、日本での経験を活かし、その個性的かつ高い能力を発揮して素晴らしい大使になると期待されます。
--------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹