「感動した本の面白さを伝えたい」 ビブリオバトルで大学受験 チャンプ本が合格ではなく、何が評価されるの?
多様化する大学入試の中には、本や図書館を活用した入試もあります。筑波大学の推薦入試では、ゲーム感覚で書評合戦をする「ビブリオバトル」を面接に取り入れたユニークな「ビブリオバトル入試」を行っています。「チャンプ本」に選ばれたら合格するわけではありません。いったい、何を評価する入試なのでしょうか。(写真=筑波大学提供) 【写真】ビブリオバトル方式の概要をまとめたポスター=筑波大学提供
「書評合戦」で学生を選抜
筑波大学の情報学群(知識情報・図書館学類)が2019年度入試から推薦入試に導入した「ビブリオバトル方式」は、大学入学後の学びとのつながりを重視した入試の一つです。この入試は「小論文+面接」で行われ、面接に「知的書評合戦」と呼ばれる「ビブリオバトル」を取り入れています。 ビブリオバトルとは、「本の紹介コミュニケーションゲーム」のことで、おすすめの本を持ち寄った参加者が1人5分で順番に本を紹介し、それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを行います。すべての発表が終わった後に、参加者が一番読みたくなった本に投票し、「チャンプ本」を決定します。2010年に大学生の全国大会「ビブリオバトル首都決戦(現・全国大学ビブリオバトル)」が開催され、その後、「全国高等学校ビブリオバトル」もスタート。現在は小中学生を対象にした大会や、図書館・書店でのイベントも開かれるなど、幅広い層に親しまれています。 知識情報・図書館学類の宇陀則彦教授は、入試にビブリオバトルを採用した理由をこう語ります。 「制限時間内に本の魅力を伝えるには、表現力、説得力、論理的思考力、コミュニケーション力など幅広いスキルが求められます。入学後の学びとの親和性も高く、知識情報・図書館学類のアドミッションポリシーに合致する学生を選抜する方法として最適だと考えました」
気になる評価の基準は?
この入試で合格した知識情報・図書館学類3年の槇嶋七彩さんは、受験当時のことを次のように振り返ります。 「初めてビブリオバトル入試を知った時は驚きましたが、幼い頃から本が好きだった自分にぴったりの入試方式だと感じました。受験を決意した段階でビブリオバトルの経験はありませんでしたが、地元の大会にエントリーして実戦感覚を磨きました。そして入試のために選んだのは、『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和/著)という小説でした。この本は、過去に戻ることができる喫茶店で繰り広げられる4つの奇跡を描いた作品で、私が人生で最も感動した本です。この本の面白さを広めたいという強い思いがあったので、語りたいことがたくさんあって、ビブリオバトルの準備や対策も苦になりませんでした。入試当日は皆でより良いビブリオバトルをつくり上げようと意識することで緊張が和らぎ、積極的にディスカッションを楽しむことができました」 ビブリオバトル方式の推薦入試は、例年60人ほどが受験します。受験者が紹介する本のジャンルはバラエティー豊かで、漫画や時刻表を持参する人もいます。 「『蜻蛉日記』の現代語訳を紹介している人がいたのですが、どんなところが好きかという説明がとても情熱的で印象に残っています」(槇嶋さん) ゲームの性質上、「チャンプ本に選ばれること=合格の条件」だと考えがちですが、鈴木伸崇知識情報・図書館学類長は、「チャンプ本の投票結果が入試の合否判定に影響することはありません」と断言します。その上で、評価の基準について、次のように説明します。 「発表者として自分の意見を論理的に説明し、質問の意図をくみ取った的確な回答ができているか。質問者として議論に役立つ協調的な質問ができているか。この入試では、論理的思考力や表現力、説得力、コミュニケーション能力を評価の軸として合格者を選抜しています」 ジャンルを問わずに「伝えたいこと」が明確にある本を選び、周囲を巻き込むプレゼンテーションとディスカッションが行えるかが、高い評価を得るポイントと言えそうです。