なぜWBC王者の拳四朗は矢吹正道との死闘にTKOで敗れ具志堅氏の記録挑戦の夢が途絶えたのか…見え隠れした新型コロナ感染影響
4年4か月の月日をかけて近づいていた具志堅氏が持つ偉大なる13度連続防衛の日本記録に5試合届かず夢破れた。 「連続防衛記録は地元で止まる」のジンクスを覆すことができなかった。具志堅氏の防衛記録は地元沖縄での初興行で13でストップしたし、その具志堅氏の記録に挑んだ元WBC世界バンタム級王者の山中慎介氏も母校の南京都高のある京都で“悪童”ルイス・ネリに敗れ、連続記録は12で止まった。そして、拳四朗も生まれ故郷の京都で約1000人の応援団がかけつけた中、そのジンクスに沈んだ。 「地元の重圧はなかった。逆に本人は喜んでいたくらい。本気で具志堅さんの記録を狙いにいっていただけに本人は精神的にかなりのショックだと思う」 寺地会長は息子の気持ちを代弁した。 アマ、プロを通じて初めて経験した9ラウンドの目の上のカットと、腫れがひどかったため、すぐさま京都市内の病院に直行。8度の防衛を誇る元王者はメディアに言葉を発することはなかった。 拳四朗が左ジャブの手数で4ラウンドまでコントロールしていた。だが、ジャッジの3人のうちドローが一人、2人は40-36のフルマークで矢吹を支持していた。 寺地会長は「悪くてドローだと思った。驚いた。あそこからリズムを変えざるを得なくなった」と言い、矢吹自身も「最初、40ー36と聞いたとき、チャンピオンが取っているかと思った。でもすべて想定内」だという。 だが、矢吹は準備した作戦を遂行していた。 「拳四朗には強弱のジャブがある。弱の部分は打たれてもガードするだけで無視。強いパンチにはジャブを合わす。ワンツーにはストレートを合わせる」 ポイントで後手に回った拳四朗が4ラウンドから距離をつめ、左ジャブの強度を増してくると、その打ち終わりに左ジャブを必ず打ち返した。 本調子に程遠かった拳四朗は、ジャブに得意の強弱もつけることができていなかった。加えて矢吹の一発を警戒しすぎて左ジャブ以外のバリエーションを出せない。 対照的に矢吹は、大きな右のストレートをかぶせ、左右のフックから、右のアッパーをまるでジャンプでもするかのように打ち込んだ。一種のカエル飛び戦法だ。拳四朗がステップバックで一の矢を外すと、そのまま走るようにして追いかけて二の矢、三の矢を浴びせた。 「普通にパンチを打っても距離感抜群の拳四朗に当たらない。バックステップが鋭いから生半可の踏み込みでは触れない。ぶさいくでもいいからなんとか触った。触られると嫌な選手。ボディも打たれたことない選手やからね。大振りにもなって、スタミナは失ったが、あれが逆に良かった。すべて想定内です」 ボクシングのテクニック勝負の枠からはみだしたような異色の攻撃が拳四朗の精密ボクシングを狂わせ破壊したのである。 それでも「判定では勝てないと言われていたしポイントは気にしていなかった。ボディも打ってダメージを蓄えさせて最後に勝てばいいという作戦だった」という。