先行するテスラ、中国新興自動車メーカーに日本、ドイツはどう立ち向かうのか。次世代モビリティの重要キーワード『SDV』とは?
日本は「モビリティDX戦略(案)」でSDVの姿が明確化
日本メーカーもここへ来てSDVへの転換が急速に進みそうな環境が整ってきた。これまではSDVの定義づけが曖昧で、それが開発の足かせともなってきたとも言われるが、経済産業省と国土交通省は24年5月に示した資料「モビリティDX戦略(案)」で、ようやくSDVの指針を明確に定義づけることになった。具体的には、「SDVとはクラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車」としたのだ。 すでに動き出していた日本メーカーもこの指針が明らかになったことで、共通の認識の下でSDVの議論が進んでいくようになるのは間違いない。 こうした中で活発な動きを見せているのがホンダだ。まずソニーとの合弁で事業を進めるソニーホンダモビリティ(SHM)の「アフィーラ」が、2025年前半に受注を開始して26年にも納車を開始。また2024年8月に公開された「アキュラ・パフォーマンスEVコンセプト」が量産をスタートさせ、さらに26年には、今年1月のCES2024で公開されたホンダブランドによる「ゼロ・シリーズ」の第一弾が発売される予定となっている。 また、ホンダは日産や三菱と協力して、より広範囲な車種に展開できるコストパフォーマンスに優れた次世代SDVプラットフォームの開発も検討中だ。量産までにはもう少し時間がかかりそうだが、これが実現すればSDV普及への弾みとなり、ホンダがSDVにおけるイニシアチブを獲得する可能性は十分あると見ていいだろう。
SDVのアップデートはハードウェアの枠内にとどまる
こうして自動車業界は一気にSDVの普及へ加速していきそうだが、最後に忘れてはならないことがある。それはアップデートによって様々な制御や機能が追加されていくことになるSDVであっても、それはハードウェアの枠を超えることはできないということだ。 たとえばADASにおいて、センシングをカメラで行っているのと、ミリ波レーダーなどをカメラとフュージョンで組み合わせているのとでは認知能力で明らかに後者に優位性がある。さらにサスペンションなど制御系の基本パフォーマンスでもハードウェアの特性が大きく変わることはない。 それを示す一例がADASの世界的なトップメーカーであるモービルアイが、2025年からLiDARとミリ波レーダーの内製化することを発表したことだ。背景には自動運転レベル4を実現するためにはカメラだけでは不十分との判断があったからで、これはソフトウェアだけのアップデートでは限界があることを如実に示していると言えるだろう。 かつて1990年代の日本では、専用CD-ROMを読み込ませることで、ソフトウェアをアップデートして機能を追加する考え方をカーナビゲーションでに実用化していたことがある。しかし、当時のメモリ環境がチープだったこともあり、機能を走らせているとハングアップしてしまうことが多発していたことを思い起こす。20年前の話を今と比較するのはナンセンスかもしれないが、これに近いことがSDVでも絶対に起こらないとは言い切れないと思うのだ。 とはいえ、次世代モビリティとしてSDVが当たり前となる時代は今後10年以内に確実に訪れるだろう。前述したようにハードウェアの枠内とはなるものの、ソフトウェアによる機能アップは一定の範囲内でアップデートされていくものと見られる。その意味でも当面はエンタテイメント系やユーティティ系の機能アップから普及していき、その状況を見極めつつ制御系のアップデートが進んでいくとみていいだろう。 経産省と国交省が示した資料「モビリティDX戦略(案)」では、2030年時点でのSDVの世界シェアが日本車として約3割となる1200万台を獲得する目標を掲げており、自動車メーカー各社がしのぎを削るのは確実。SDVが自動車との付き合い方をどう変えてくれるのか。今後の展開からは目が離せそうにない。 カーライフアドバイザー 【会田 肇|Hajime AIDA】 1956年茨城県生まれ。新卒で就職した自動車雑誌出版社で編集職を経て、フリーランスとして独立。カーナビの黎明期より進化の過程を追い続け、近年はCASE時代に合わせた新たなモビリティの取材にも積極的に関わっている。使い手の立場でわかりやすいレポートを心掛け、掲載媒体は自動車専門媒体からモノ系媒体にまでと幅広い。カメラ系の情報にも詳しい。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
文= 会田 肇