大谷がスポーティングニュース最優秀男性アスリートに:国内外記者が振り返る前人未到のシーズン
小座野容斉氏のコメント
<プロフィール> 早稲田大学卒業後、1989年に毎日新聞に入社。プロ野球をはじめとするスポーツ全般を36年間にわたり取材。特にアメリカンフットボールの分野では、年間約70試合を取材し、幅広い記事を執筆。2020年に毎日新聞を退職後、『アメリカンフットボールマガジン』に寄稿を続け、2021年から毎年『NFLドラフト候補者名鑑』を出版。2023年よりスポーティングニュース日本版のアシスタントエディターを務める。 <小座野氏のコメント> 日本は米国とは違って、マンガが文化として認知されており、大学生や大人もマンガを読むのが一般的だ。その中で、野球マンガというジャンルが60年以上前から確立されていて、古くは「巨人の星」や「ドカベン」、そして「MAJOR」といった、誰もが知っている有名な野球マンガがある。そういう作品を愛する日本人が、「大谷が、マンガを超えてしまった」とよく語っている。 初期の野球マンガのヒーローは秘密の打法や、魔球を駆使して、超人的な活躍をする。しかし、大谷は、MLBの、つまり世界最高峰の野球選手と対戦して、極秘の特訓も、魔球も駆使しない。鍛え上げたファンダメンタルと、プレー時の集中力で、対戦相手を圧倒して、スタッツを積み上げる。 今の日本は、閉塞状況にある。経済は30年以上続く停滞から脱せず、為替レートが円安ドル高で、実質所得は全世界で30位前後。給与は上がらず、高齢者が増え、若年人口も減り、デジタルデバイドも広がり、八方ふさがりだ。何もかもうまくいかない中で、大谷だけが、世界最高峰の舞台で、トップの中のトップとして存在している。過去に誰もやったことのない最高の結果を、産み出している。 特に今シーズンは、大谷の成功と、ドジャースの勝利が、同じページに記されていた。「野球はチームスポーツ」と教え込まれてきた日本人が、唯一気にしていた、大谷の所属チームの勝利が、今年は実現した。自信喪失気味の日本人が、「どうですか、彼を見てください」と、米国人に誇ることのできる人間なのだ。 2024年6月下旬、打順が2番から1番に替わった時、大谷は今季の目標として「50-50」を明確に設定したと、私は理解している。この個人目標はチームの勝利にも大きく貢献する。大谷は7月以降に43盗塁した。しかも、失敗は1回だけだった。 私が感じる、大谷と、これまでの日本人メジャーリーガーとの違い。それは、周囲の選手を見下ろしながらプレーしているということだ。これは、決してリスペクトを欠いているわけではない。自分と相手の力量を冷静に分析し評価したうえで、そう行動している。 私は、プロのカメラマンとしてのキャリアをスタートした25歳の年に、アマチュア選手だった野茂英雄を撮影した。その後の数年で、スズキイチロー、松井秀喜の高校生時代もフィルムに収めた(デジタルカメラは当時ほぼ存在し無かった)。原石時代の輝きを知っているから、彼らの、その後のMLBでの活躍も、喜びこそすれ、驚くことはなかった。 大谷は、違う。毎年、毎年驚かされる。だから、彼が来年かあるいは再来年、サイヤング賞を受賞することだってあるかもしれない。そのように心の準備をしている。