「AIにできない、人に寄り添う管理栄養士を育てたい」 料理雑誌の編集者から大学講師へ
食に関するテーマは無限
管理栄養士養成課程のカリキュラムは必修科目が多く、実験や実習の繰り返しで非常に忙しいと言われています。そんな学生たちに4年間でどんな力をつけてもらいたいと考えているのでしょうか。 「忙しさに流されることなく、『なぜ自分はこれをするのか』と常に自問してもらいたいと思います。やらされるのではなく、興味と好奇心を持って取り組んでほしいですね。そして学んだことを知識で終わらせずに、時代の流れを読みながら学んだことを使っていく応用力を身につけてもらいたいです」 そうした好奇心や時代を読む目、応用力を発揮する場となっているのが、ゼミでの活動です。メンバーは20人で男女半々。8つのチームに分かれ、「学生たちのやりたいことを学生たちに任せている」と土田講師は話します。 「『炭火焼き』は私の研究テーマでもありますが、焼いている最中に温度が一気に変化します。プロの料理人は、そんな炭の性質を経験からつかみ、自分の感覚で焼いているのです。その感覚は目には見えませんが、その向こうには数値化できる何かがあるはずです。そこに興味を持ったら、それが研究のスタートになります。あるとき、炭火焼きチームの学生が、キャンプファイアでの藁(わら)焼きはどうしてあんなにおいしいんだろうと言ってきました。『それ、面白いね。私と興味が一緒』と答えました。その学生は今、この研究で卒論を書いています」 ビーガンチームでは、小麦粉の代わりにグルテンフリーの米粉を使ってカヌレ(フランスの伝統焼き菓子)作りに挑戦しています。「カヌレは一晩、生地を寝かせて作りますが、グルテンが形成されない生地を一晩寝かせると果たしてどうなるのかを研究しています。アレルギー疾患の人が増えていることを考えると、時代をしっかり見据えた研究と言えるのではないでしょうか」 ほかにも、育ちすぎて使えなくなったキクラゲから成分を抽出して商品開発につなげることに挑戦中のキクラゲチームなど、各チームの研究が進んでいます。 自身の研究については、「文教大学に来てからこれまで学生たちの講義やゼミを受け持つ教育に力を入れてきましたが、ようやく自分の研究を深めていくことにも時間を振り向けることができそうです」。 「個人的に関心を持っているテーマは、プロの料理人の技を効率的かつ広範囲に伝える方法です。たとえば、かつらむき(大根などを帯状に薄くむく)をしている料理人の身体全体を眺めれば、その人がベテランか修業中なのかは遠くからでもわかります。身体の動きを多様な視点から観察し、数値化・グラフ化すればより良い方法が見つけられると期待しています。ベテラン本人も気付いていないコツを見つけられると嬉しいですね」 そして「食に関するテーマは無限にある」と何度も繰り返しました。 「70億人いたら70億のテーマがあります。赤ちゃんにも好みはあるし、アレルギー体質ならそれがその人のテーマになります。だからこそ食は面白い。これからも楽しいな、楽しいなと思いながら、食を追いかけていきたいです」 〈プロフィル〉 土田美登世(つちだ・みとせ)文教大学健康栄養学部管理栄養学科専任講師。広島大学学校教育学部家庭科教育卒、お茶の水女子大学大学院家政学研究科食物学専攻修士課程修了、同大学院人間文化創成科学研究科ライフサイエンス専攻博士後期課程修了。「専門料理」編集部、「料理王国」編集長を経て、フリーランスの食記者・編集者に。著書に『すしのサイエンス』『天ぷらのサイエンス』(共著、ともに誠文堂新光社)、『やきとりと日本人』(光文社新書)、『こだわりパン屋を開く』(ぺりかん社)、『日本イタリア料理事始め 堀川春子の90年』(小学館)など。
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