6年佐賀に通う久住昌之が知られざる大イベント<バルーンフェスタ>で猛烈に感動。「これか。俺はこれが見たかったのだな」
漫画・ドラマともに大人気の『孤独のグルメ』の原作者として知られ、日本中を飛び回る久住昌之さん。そんな久住さんがどっぷりハマり、足掛け6年以上通っているのが<佐賀県>です。そこで今回は、久住さんの著書『新・佐賀漫遊記』から、久住さん流・佐賀県の楽しみ方を一部抜粋してご紹介します。 【写真】久住さんが感動した、バルーンの一斉離陸 * * * * * * * ◆バルーンフェスタ本番へ 佐賀インターナショナルバルーンフェスタの夜間係留イベントの翌朝は午前5時に起きて、まだ暗いうちに佐賀駅前の宿を出る。でも空は晴れていて星が見える。風は感じられない。風さえなければ大丈夫だ。 こんな朝から、電車は東京の通勤ラッシュ並みの鮨詰め大混雑だ。でも2駅の我慢。みんな見に行くのだ。バルーンさが駅でほぼ全員降りる。 会場に向かう観客はものすごい数だが、印象としては昨夜の方が多く、なんだ、せっかく晴れているのになあ、と思った。なぜかやや開催者側の気持ちになってる。 夜が明けてきた。淡い色の朝焼け。夜明けの雲がオレンジっぽく照らされて美しい。 会場に着くと、河川敷の土手の斜面はもう人でいっぱいだった。昨夜と変わらない。いやもっと多いか。なあんだ、もうみんな来ていたのか。いったい何万人いるんだろう。子供からお年寄りまで、あらゆる世代がいる。 土手の斜面になんとか隙間を見つけて、持ってきたビニールの敷物を小さく広げて、腰を下ろす。お尻が冷たい。 すでにアナウンスが始まっていて、競技前だが、1機のバルーンが上がっている。デモンストレーションだろうか。説明がないのでわからない。 でも女性アナウンサーの声はずっと続いていて、その声がひときわ高く「**さん、行ってらっしゃーーーい」と言うと、そのバルーンは少し風に流されながら、ぐんぐん上がっていった。
◆バルーンフェスタ最大の見どころ 下を見ると、河川敷にワンボックスカーが続々と入ってきた。6時から競技というのに、案外ギリギリまで車は少なかった。風の様子をうかがっていたのだろうか。 競技には、いろいろな種目があり、その複合得点で順位を競う。 だが基本は、数キロ離れたターゲットに、マーカーと呼ばれる砂袋を、いかに近づけて落とせるかだ。 熱気球は上下にしか操縦できない。風のみで進むので、時間や高度で刻々と変わる風の向きを読んで、風を掴みそれに乗って目的地を目指さねばならない。 だから、その日のゴールは風向きによって、試合直前に決められるそうだ。そんなルールなのか。 しかし、観客はバルーンについていくことはできないので、結果は全然見れない。各チームが、どう巧みに風を捕らえているか、どんな素晴らしい操縦をしてるかなんて、ここで気球を見送ったワタシらにゃ、なーんにもわかんない。 ゴールも遠くて、勝ち負けなんてわかりゃしない。会場に表示されることもない。 つまり、試合なのだが、観客はその勝敗を知ることができない。 誰が1位でゴールした、という情報も、会場で放送されるんだか、されないんだか。少なくとも電光掲示板的なものは観客席から見あたらない。 ここに来てる観客にとって、試合結果はどうでもいいようだ。 それより、全60機の一斉離陸の光景が見たいのだ。それこそがバルーンフェスタの、最大で唯一の見どころなのだ。それが現地でやっとわかった。 これは確かに競技スポーツなんだが、大声援とか、勝敗への大歓声は、ない。