忽然と消えたアイルランドの至宝、ホームズも解けない?今も人々を魅了する世紀の迷宮事件
1907年にダブリン城の金庫から盗難、聖パトリック騎士団のクラウンジュエル
1907年7月6日、アーサー・ビカーズ卿は愕然とした。アイルランドのクラウンジュエル(戴冠式用宝玉)が消えてしまったからだ。ダブリン城の執務室で、金庫に鍵をかけて保管していたこの宝石は、英国王室とつながりのある組織が所有しており、最後に目撃されたのは6月11日だった。実際にいつなくなったのかはわからなかった。 ギャラリー:消えたアイルランドの至宝、聖パトリック騎士団のクラウンジュエル 写真と画像7点 そこには、エメラルドやルビー、ブラジル産のまばゆいダイヤモンドなど、宝石がついた記章や首飾りが含まれていた。当時の金額で総額5万ポンド、現在の価値に換算すると500万ドル(約7億7500万円)とも言われる。 ビカーズは、「アルスター・キング・オブ・アームズ」とも呼ばれるアイルランド紋章院長官であり、宝石コレクションの管理者でもあった。この盗難事件は、彼の自尊心、キャリア、評判に大きな打撃を与えた。それは当時まだ英国の一部だったアイルランドで、英国の権威の中枢だったダブリン城にとっても同様だった。 盗難のニュースはすぐに広まった。国際的な注目が集まり、捜査が始まった。それによってビカーズはさらに屈辱を受け、この時代の有名人の関与が疑われることになるが、解決に近づくどころか、湧いてくる疑問の方が多かった。 事件の黒幕はいったい誰なのか? そして、宝石を取り戻すことはできるのか?
巧妙な手口
盗まれた宝石は、アイルランドを拠点とする英国のエリート騎士団である聖パトリック騎士団の儀礼用装飾品だった。1831年に英国王のウィリアム4世から寄贈され、騎士団長を兼ねるアイルランド総督が儀礼の際に着用してきたものだ。 アーサー・ビカーズは宝石がなくなったことに気づいたが、最初は誰もそれを信じなかった。7月9日のアイリッシュタイムズ紙は、「あまりに衝撃的なニュースだったので、人々は信じようとしなかった」と報じている。捜査を手伝ったロンドン警視庁さえ、最初は盗難ではなく、置き忘れではないかと考えた。 この盗難事件で何より異例だったのは、街でも特に警備が厳しいダブリン城に盗みに入るという大胆な手口だ。つまり、パトロールの目を避け、気づかれることなく建物に侵入しなければならない。 ビカーズの執務室では、鍵のかかった金庫というさらなる難題が待ち受けていた。しかしそこには、こじ開けられた形跡はなかった。つまり、盗んだ鍵か合鍵を使って金庫を開け、宝石を取り出したに違いない。 警備をかいくぐって金庫を開けるという手口から、内部の関係者による犯行ではないかという重要な疑いが浮上する。