作家として多数の連載を抱え、4つのシェア型書店をプロデュースし、横綱審議委員に就任…超多忙の仏文学者・鹿島茂が次にたくらむ「出版業界との『連帯』」とは何なのか
講談社現代新書創刊60周年を記念して、現代新書の筆者の方々に、ご自身にとって特別な現代新書を挙げていただきながら自著についてお話を伺うインタビューシリーズ「私と現代新書」。 【画像】デパートが大好きな鹿島茂が語る日本とフランスのデパートの違い 第1回目にお話を伺うのは、仏文学者の鹿島茂さんです。これまで刊行された現代新書は『デパートを発明した夫婦』(1991年)と『悪女入門 ファム・ファタル恋愛論』(2003年)。このうち『デパートを発明した夫婦』は、書き下ろしの「パリのデパート小事典」を付して、今年、装い新たに講談社学術文庫『デパートの誕生』として刊行されました。 鹿島さんにとって特別な現代新書3冊を挙げていただいた1回目(「「もっとも多忙な仏文学者」鹿島茂が選ぶ現代新書はこの3冊だ!」)、自著『デパートの誕生』についてお話を伺った2回目(「知る人ぞ知る「商売の教科書」! ロングセラー『デパートの誕生』に書かれた「商売の普遍的極意」)に続き、今回は鹿島さんみずからデパート商法を実践しているというシェア型書店のプロデュースについてお聞きします。(#3/全3回)
書店もデパートも商売の原理は同じだ!
―― ところで、鹿島さんご自身も、『デパートの誕生』で書かれたブシコー夫妻のデパート商法を実践なさっていますね。 鹿島さんがプロデュースするシェア型書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」(以下、PASSAGE)が2022年に神田神保町にオープン、2023年には同じ建物の3階にカフェ併設の2店舗目「PASSAGE bis!」が、そして今年3月には3店舗目の「PASSAGE SOLIDA」が同じ神保町の靖国通り沿いにオープンしました。3店舗とも、豪華な内装にブシコーの影響を感じます。 シェア型書店とは、書棚を棚単位で貸し出し、棚を借りた人はその棚で書店を営むという、いわば集合店舗のようなシステムの書店で、近年、東京で増えています。作家の今村翔吾さんも、今年4月に「ほんまる」というシェア型書店を神保町にオープンしました。 PASSAGEの棚では新刊も古書も売ることができ、これまでの一般的な書店とも古書店とも違う新しい仕組みの書店です。 シェア型書店がこのまま増えていくと、出版業界の構造に影響を与えていくかもしれません。神保町におけるシェア型書店の先駆者ともいえる鹿島さんはどうお考えですか? 鹿島茂さん(以下、敬称略):たぶんそうなっていくと思うけど、途中で限界に達するでしょうね。 ―― どういうことでしょう? 鹿島:このモデルは、棚主になる人がいればスタートできます。しかし、棚で本が売れないと棚主も出て行ってしまう。ただ棚を持ってもらうだけではだめなんです。 つまり、デパートと原理は同じなんですよ。お客さんはシェア型書店に来て棚主の本と出会い、初めて自分の欲望を見出す。基本的に、本にはハウトゥー本以外「必要の経済」は適用されないのですから。どうやって自分の棚にお客さんを来させるか、という工夫が必要です。 ―― ブシコーさんの「欲望喚起装置」が必要ということですね。 鹿島:それは、シェア型書店に限らず、普通の書店でもいえることです。お客さんに、売る側の顔を見せることが必要なんです。