セルフプレジャーの話は、会話のプライベートゾーンと呼んでもいいかもしれない
コミカルな語り口と鋭い着眼点で、30歳前後女性の「あるある!」を発信し、SNSで大人気のコラムニスト・ジェラシーくるみさんの連載<ジェラシーくるみの「わたしをひらく」>を更新! 【画像】ジェラシーくるみの「わたしをひらく」 今回のテーマは、yoiのコンテンツとしても人気のキーワード「セルフプレジャー」について。女性がセルフプレジャーをすること、セルフプレジャーについて話すことが、どんどんしやすくなっている昨今。以前から、セルフプレジャーを嗜んでいたというジェラシーくるみさんが感じる、最近の変化とは?
先日、女4人で韓国に行った。 「オリーブヤング」という、いわば日本の「マツモトキヨシ」のような巨大ドラッグストアの中で、夏はこのファンデーションがいいらしいとか、このアイシャドウのラメを目尻にのせるとかわいいだとか、やんや騒ぎながら買い物に夢中になっていると、あっという間に1時間半が経っていた。 事前に得た口コミや互いの知恵を組み合わせながら、商品をぽんぽんカゴに入れていくのは、とても楽しかった。 自分の肌に触れ、自分をいたわり、自分を悦ばせるセルフプレジャーも、少しずつそんなノリになっていけばいいなと密かに思っている。 公の場でオープンに話すというよりは、例えば話しやすい同性の友人やパートナーと、きゃっきゃっ言いながら楽しめる話の種に。 今年の3月3日、株式会社TENGAが運営する女性向けセルフプレジャーアイテムブランドの「iroha(イロハ)」は、10周年を迎えた。 衝撃的だったのは、その10周年記念アンバサダーに水原希子さんが起用され、読売新聞の朝刊一面に「iroha」のブランド広告が掲載されたことだ。 irohaを愛用して7年目になる私としては、今回の10周年のブランド広告掲載は非常に心強く、気分の上がるニュースだった。 全国紙にセルフプレジャーアイテムブランドの広告が掲載されるのは、日本初の快挙らしい。 というのも、irohaをはじめとしたプレジャーアイテムはどうしても「18禁」のアダルトカテゴリに分類されてしまうからだ。 小さい頃からセルフプレジャーを嗜み、教室の片隅で仲の良い女子とヒソヒソ話し合っていた私からすると、プレジャーアイテムたちが18禁にカテゴライズされてしまうことに一抹の寂しさを感じる。 ほかにも、プレジャーアイテムの新規ブランドは続々と立ち上がっており、SNSでも紹介投稿やPR記事を目にするようになってきた。 セルフプレジャー初心者の友人の誕生日にirohaを贈ったこともある。 「ねえ、びっくりした。自分でするのって気持ちいいんだね」と、 後日熱のこもった感想をいただいた。 女性の性に関する話題には、まだまだ「タブー感」がある。 例えば飲み会の場で、そこまで親しくもない男性に「女子ってオナニーとかすんの?」と不躾に聞かれるのは不快だ。 でも、親密な間柄の友人同士で、客体としてではなく主体の女として、こしょこしょと話すのはとても楽しい。 私たちがこの話題に触れやすくなった背景には、ここ数年で目にし、耳にするようになった「セルフプレジャー」という言葉の語感のよさがあるだろう。 自分自身を楽しませる、悦ばせるといった意味合いを持ったこのワードは、小洒落ていて、「オナニー」や「自慰」「マスターベーション」などの従来の用語よりも、はるかに抵抗感なく使える言葉だ。 そのセルフプレジャー周辺の話題として挙がりやすいのは、まず自分の“スタイル”だ。 自分の指一本で行う硬派スタイル、二本以上の指を使う王道スタイル、さまざまな道具とコラボレートするミーハー探求型スタイル、シャワーやその他日常の道具を使って行う独自路線の上級者スタイルなど……。 それに伴い、どの現場で行っているかのロケーションの話も話題にのぼる。特に実家住まいの人やパートナーと同棲している人は、時間帯や場所に気を遣わざるを得ない。誰かが静音タイプのアイテムをおすすめすると、しめた!と言わんばかりにその場で商品をポチる友人も少なくない。 プレジャーアイテムは、挿入型・当てる振動型・吸引型などのタイプから、形状、素材、感触までさまざまな軸で好みが分かれる。最近では、スマホ連動で音声や動画とリンクさせながら楽しめるハイテクなものも出ている。 そして素材(おかず)にいたっては、本当によりどりみどりだ。映像や漫画だけでなく、官能小説や体験談の“テキスト”をつまみに楽しむ人もいる。 生々しすぎるので詳細は割愛するが、友人たちが最近開けた性の扉の話は非常に興味深い。その日の夜は、私も新たな性の扉を恐る恐るノックしてみたりする。 セルフプレジャーをする理由や目的も百人百様。 それは、一人の夜にむくむくと湧きあがった性欲の解消に限らない。ストレス発散として、入眠の儀式として、セックスライフの高みを目指す鍛錬として、ただの日課として……。 自分の体をなぞり、反応に向き合うことは、自身の興味、悦び、嫌悪の輪郭を掴んでいく旅の一歩だ。 友人の知恵や、自分のセルフプレジャー経験を通じて、自分の好きなこと、興味がわくこと、受け入れがたいことを新たに知るのは面白い。意外な部位が性感帯に変わったりもする。 とはいえ私は、すべての人がセルフプレジャーに踏み込み、開けっぴろげに話す未来を望んでいるわけではない。このテーマは、自分の心身に関わる極めてパーソナルな問題で、人によっては不快に思ったり、過去の何かしらの嫌な経験が思い起こされたりするだろう。 相手のプライベートゾーン(水着で隠れる部分と口)に許可なく触ってはいけないのと同様に、セルフプレジャーのテーマを出すときには相手が親しい友人であれ、恋人であれ、相手が不快に感じていないか十分に注視することが求められる。 “会話のプライベートゾーン”と呼んでもいいかもしれない。 そして、セルフプレジャーカテゴリは美容カテゴリと同じように、他人のおすすめが必ずしも自分に合うとは限らない。友人と交換した情報をもとに、部屋で一人こっそりと一喜一憂しながら自分の肌や趣味に合うものを選りすぐっていく――。 試行錯誤して自分自身に手間をかけていく過程そのものが、自分の心とからだをほぐし、癒し、解放させることにつながるのだろう。 コラムニスト ジェラシーくるみ 会社員として働く傍ら、X(旧Twitter)やnote、Webメディアを中心にコラムを執筆中。著書に、『恋愛の方程式って東大入試よりムズい』(主婦の友社)、『そろそろいい歳というけれど』(主婦の友社)がある。 文/ジェラシーくるみ イラスト/せかち 企画・編集/木村美紀(yoi)