能登の復旧阻む「断水」 過去より目立つ“遅れ” 宿泊も再開できず…入れぬボランティア【武居信介の防災学】
■都市部ではさらなる課題も
さらに、人口が多い都市部では高層ビルでの水の確保が大きな課題になると見られています。地震後にたとえ水道が通っていても、停電すると水を上層階までくみ上げるポンプが動かなくなって、ビル全体で断水が続く可能性が高くなります。停電などでエレベーターもなかなか復旧せず、上層階まで水をあげることも大きな課題となります。 また首都直下地震の場合や、南海トラフの地震の大阪や名古屋といった大都市では、人口が多いことから給水すべき水の量は膨大なものとなります。水道統計によると東京都の場合、1人1日あたり平均で305リットル、都内全体では1日に416万8000立方メートル(※1立方メートルは1000リットル)もの水が供給されています。災害時には飲料水だけでもこの百分の一の量は必要となりますが、これだけの水を各地に配るためには、給水車をいかに手配していくのか、全国からの応援が駆け付けるにしても広域に分散せざるを得ないので、どれだけ対応できるかも大きな課題です。 東京都が公表している「南海トラフ巨大地震対策《全国の水道事業体に向けた提言》」では、首都圏には断水時に給水車での対応が必要となる医療機関が多数あり、東京都だけでも 1000を超える病院や人工透析施設などを抱えているとして、南海トラフの巨大地震や首都直下地震が発生した場合には、「給水車の不足等も相まって、これまでに経験したことのない断水を起因とした多くの人命が危機に直面するおそれがある」と指摘しています。
■事前に備える方法は 能登では「プールの水」も使用
水の利用目的としては、飲み水や料理に使う飲料水と、洗濯、トイレやお風呂といった生活用水に分かれます。 飲料水は給水を受けるしか方法はありませんが、生活用水はそこまで厳密にろ過されていることは求められていません。阪神大震災でも、東日本大震災でも、多くの市民が学校のプールにたまっていた水をトイレなどの生活用水に使ったり、近くを流れる川から水を汲んだりして使っていました。 また、災害時には井戸を活用する方法があります。阪神大震災を経験したマンションの住民の自治会が、マンションの敷地内に自分たちで井戸を整備していざという時のために備えているケースもあります。全国各地の自治体では一般家庭などにある井戸を「災害時協力井戸」として登録しておいてもらい、災害時に活用しようという動きもあります。 東京でも公園に災害用の井戸を整備したり、学校などに井戸を整備したりている地域もあり、災害時の利用を進めようとしています。自宅の近くにはどこに井戸があるのか確認しておくことも大切です。 また、日本赤十字は海外の活動でも使用する水の浄化装置を能登半島地震の際にも現地に持ち込み、プールの水を浄化して使用しました。こうした浄化装置は小さなものも販売されているので、自治体や地区の自治会などで準備しておき、川の水などを有効に利用していくことも検討の余地があるといえます。 そして家庭では、飲料水については、数日間は自前の備蓄でまかなえるように準備しておくことが重要です。自宅に家族で必要な量を常に備蓄しておき、普段に飲んでしまったら新しいものを買って入れ替えておく「ローリングストック方式」がおすすめです。 さらに、いつもお風呂に水をためておくようにすることで、いざという時に生活用水としてしばらくの間は利用できることになります。