<勇敢・豊川センバツまでの歩み>/中 まさかの采配が的中 「常に挑戦」成長に手応え /愛知
昨秋の愛知県大会準決勝。五回表の守りにつく豊川はピンチを迎えていた。小牧南に9―7と2点差に詰め寄られ、なおも無死満塁。絶体絶命の場面で長谷川裕記監督がマウンドに送り出したのは、意外な選手だった。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 公式戦初登板となる内野手の柴山英大(1年)。小・中学時代に投手経験があるものの、高校に入ってからの登板機会は練習試合の1戦のみ。「俺!?」。驚く本人をよそに、長谷川監督には確信があった。「柴山なら行ける」 柴山は投球フォームがサイドスローだったことから、同じ投げ方をする小牧南の投手の対策として、対戦が決まった1週間前から打撃投手を務めていた。真っすぐの球速は120キロほど。球威があるわけではない。だが、制球の安定感と投球テンポの良さを指揮官は見逃さなかった。 「柴山、練習のように投げてこい!」。こう送り出された柴山は緊張していた。だが、マウンドに立つと味方の声援がはっきり聞こえ、不思議と気持ちが落ち着いた。 1人目の打者を外角低めの直球で遊ゴロに打ち取ると、続く打者を三振と遊ゴロで抑えた。1点は失ったものの、大量失点につながってもおかしくなかったピンチを乗り切った。鈴木貫太主将(2年)が後に「長谷川マジック」と呼んだ采配が的中し、ガッツポーズを決めて笑顔でベンチに戻る柴山のもとには他の選手たちが次々と駆け寄った。 柴山はその後も丁寧に直球と変化球を投げ分け、九回まで被安打2、奪三振5の粘投を見せる。打線も山本羚王(れお)(2年)や北田真心(しんじん)(1年)の適時打などで得点を重ね、12―8で勝利。重要な一戦で大きな役割を果たした柴山は「チームに貢献できてうれしかった」と表情を崩した。 決勝に進んだチームの前に立ちはだかったのは愛工大名電だった。チームは投打が空回りし、相手打線に打ち込まれ1―7で敗退した。それでも、長谷川監督は県大会を通じ、チームの成長に手応えを感じていた。「どんなプレーでもとにかく守りに入らず挑戦できたことが準優勝につながった」 チームは愛知、岐阜、三重、静岡4県の上位3チームで争う東海大会に駒を進めた。「東海大会でリベンジする」。愛知県大会で優勝を逃したナインは固く誓った。【塚本紘平】