「オトナの近視」は失明予備軍…40代から始まる「最近、見えにくくなった」を放置してはいけないワケ
近視の子どもが増えているが、実は大人になってからも注意が必要だ。眼科医の窪田良さんは「近視になることで緑内障や網膜剝離、近視性黄斑症といった眼疾患にかかる確率が爆増し、最悪の場合、失明に繋がりかねない。日本人はそのリスクにまだ気づいていない」という――。 【図表】網膜剥離が起きるメカニズム ■子どもも大人も…「近視大国ニッポン」 2024年7月、文部科学省が衝撃的な調査結果を発表しました(※)。それは「日本の小中学生の50.3%が近視」というもの。今から45年前の1979年の調査と比較するとその数字は倍増しています。 ※文部科学省「児童生徒の近視実態調査について」 私が眼科医となった約30年前は、近視といえば「子どもの目に起きる現象」で病気とは捉えられていませんでしたし、大人になったら発症しないというのが常識とされていました。 しかし近年では子どものみならず、大人になってからも近視を発症するケースが増えています。私たちが、近視の大人238人に対して独自に実施した調査によると、43.6%の人が「20歳以上で近視となった」と回答しています。 ■海外は近視を「国の危機」と捉えている 24年9月には、科学・医学領域の世界的権威である米国科学技術医学アカデミーが、「近視は病気である」という報告書を発表し、海外で話題となりました。 私は、この「近視」を国を揺るがしかねない重大な問題と捉え、さまざまな啓発活動に取り組んでいます。「近視=病気」であり、子どものうちから意識的に予防することが非常に重要であることは、欧米や中国ではかなり知られており、中には国家をあげて「近視の予防」に取り組んでいる国もあるほどです。 しかし、日本ではまだまったくと言っていいほど認識されておらず、私は眼科医として危機感を覚えています。
■白内障や緑内障、網膜剝離は他人事じゃない それは、「近視」が将来的な失明リスクを大きく押し上げる要因だからです。 特に強度近視(※)の場合、そのリスクは一気に跳ね上がります。日本眼科医会のデータによると、白内障には5倍に、日本人の視覚障害理由No.1である緑内障には14倍、網膜剝離には22倍、近視性黄斑症にいたっては41倍までかかるリスクが増大します。 ※眼軸長が直径26.5mm以上の場合や、度数が「-6.0D」を超えている場合を「強度近視」という。つまり裸眼ではっきり見える距離が16センチ以下の人が強度近視にあたる このように書くと、「白内障も緑内障もシニア世代がかかる病気」「網膜剝離は激しい接触スポーツをしている人がなるもの」とおっしゃる方もよくいます。 しかし、決してそんなことはありません。 40代でも眼疾患に罹る人はそれなりにいらっしゃいますし、私は常々「40歳を超えたら年1回は眼底検査を受けてください」と勧めています。眼科疾患は自分では気づきにくく、かつ早期発見・早期治療が何より重要だからです。 ■「PC画面が見えにくいと思ったら…」 いくつかの事例をご紹介しましょう。 ---------- WebデザイナーのAさん(40代女性) 「区の検診を利用して眼底検査を受診。すると網膜剝離の前段階「網膜裂孔」と診断され、すぐにレーザー治療へ。眼底検査を受けていなかったら、網膜剝離となり失明の恐れがあったと思うとぞっとしました。治療後、数日間は目を使えないので仕事にならず。そして、もう片方の目もいつ網膜剝離になるかと考えると不安です」 会社員のBさん(40代男性) 「目にモヤがかかる、PCの画面が見えにくくなるといった症状が続いたので眼科を受診。なんと両目とも白内障と診断され手術することに。片方ずつの手術だったので、数週間、片目しか使えない状態に。車や自転車の運転ができず、日常生活に支障が出て大変でした。白内障なんて親世代の病気だと思っていたのに……」 主婦のCさん(60代女性) 「もともと斜視で近視でしたが、編み物が趣味。ある日外出先で電柱に正面からぶつかり転倒。病院で末期の緑内障と診断され、片目がほぼ失明状態だったことが発覚。編み物はできていたのにどうして……」 ----------