「オトナの近視」は失明予備軍…40代から始まる「最近、見えにくくなった」を放置してはいけないワケ
■「屋外で過ごす」が近視予防になる理由 「屋外で過ごすこと」には、2つの要素があります。 それは「遠くを見ること」と「太陽光を直接浴びること」です。 「遠くを見ていたら目は悪くならない」は、昔から言われていたことです。より正確には、半径5m以内に何もない空間に身を置いて、それより手前に目に映り込むものがない状態が重要です。 「太陽光を直接浴びること」の効果は一般にはあまり知られていないかもしれません。窓ガラス越しなどではなく、太陽光のすべての波長が目に届くことが非常に重要です。詳しいメカニズムは研究中ですが、太陽光により網膜内のドーパミンが増え、近視抑制に効果があるのではないかと考えられています。 海外では、こうした科学的知見を教育の現場で実践している例も最近では増えてきました。 特に長時間机に向かわせる勉強をさせてきたアジア諸国に顕著で、台湾では2010年より小学校で一日2時間程の屋外活動を義務づけた結果、子どもの近視発症割合が減少しました。中国が知識偏重の詰め込み型教育を脱する教育改革に舵を切り、学習塾規制を行ったのも、背景に「近視」への強い危機感があったからだと言われています。 ■高齢になっても「目の健康」を維持するために 以前は「遺伝だから仕方がない」となんとなく信じられてきた「近視」ですが、最近の研究では、遺伝要因よりも環境要因の方が影響するという研究結果も出ています。日本の子どもの近視保有率がこのたった2年間で1割増えたのも、コロナ禍で屋内生活時間が増えてしまったからです。 近視研究が盛んな国の一つであるオーストラリアでは、屋外活動は大人の近視抑制にも効果があるという報告もなされています。 通勤に徒歩を取り入れる、買い物やペットの散歩でできるだけ外に出るなどの工夫を積み重ね、一日1~2時間の「屋外時間」を確保するようにしてみてください。週末にまとめて長時間屋外にいるようにするだけでも効果があります。 「早期発見・早期治療」と「一日2時間の屋外時間」。 この2つを掛け合わせることで、失明リスクを抑えて生涯にわたり「目の健康」を維持していく。それが、これまでにも増して重要な時代になりつつあります。 ---------- 窪田 良(くぼた・りょう) 医師、医学博士、窪田製薬ホールディングス株式会社 代表取締役会長、社長兼最高経営責任者(CEO) 慶應義塾大学医学部を卒業後、同大学大学院に進み眼科学研究において博士号を取得。その研究過程で緑内障原因遺伝子であるミオシリンを発見、「須田賞」を受賞。眼科専門医として緑内障や白内障などの手術の執刀経験を持つ。慶應病院や虎の門病院などの勤務を経て2000年より米国ワシントン大学に眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。2011年、『日経ビジネス』誌が選ぶ「次代を創る100人」にて、日本の次世代にもっとも影響力のある1人として選出。慶應義塾大学医学部客員教授、米国NASA HRP研究代表者、米シンクタンクNBR理事などを歴任。米国眼科学会(AAO)、視覚眼科研究協会(ARVO)、日本眼科学会、慶應医学会、在日米国商工会議所(ACCJ)、一般社団法人日米協会会員。2024年5月に東洋経済新報社より『近視は病気です』を出版。近視をゼロに、世界中から失明を無くすことを目標に活動している。 ----------
医師、医学博士、窪田製薬ホールディングス株式会社 代表取締役会長、社長兼最高経営責任者(CEO) 窪田 良