転売対策、品質管理…海外展開を進める「獺祭」がブロックチェーンで挑む日本酒復権【2025年始特集】
日本酒復活へ
先端テクノロジーを積極的に取り入れる旭酒造だが、デジタル技術の活用について現実的な見方も示す。 「お酒は『ものがある存在』だし、フィジカルなものの方が動きやすい。デジタルについては、むしろお客さまが自発的に発信してくれるものが強い」 このような認識のもと、同社は従来、お酒の会などのリアルイベントを通じた消費者とのコミュニケーションを重視してきた。ホームページのブログ「蔵元日記(Kuramoto diary)」を覗けば、その活発さを知ることができる。 また、それは酒造りについても同様で、200人もの蔵人という驚くべき人数が酒造りに携わりながら、その上で人の技を補完する手段の1つとして、データや最新技術を活用している。 その上で今回のSHIMENAWAシステム導入について、「品質を上げて、お客さまにとっての価値を高めていく“1つの手段”と割り切って取り組んでいる」と桜井社長は説明する。 システムの展開には具体的な課題も見えてきている。「このシステムをお酒だけではなく一般の消費財にまで広げられれば、マーケティングの新しい可能性が開けるかもしれない」とのCoinDesk JAPANの提案に対し、桜井社長は「可能性はあると思う。ただし現状では、NFCタグの導入でコストが2~3割上がり、機器の設置や人件費も必要。流通が負担せざるを得ない利用者への説明コストもかかる。結局それは消費者が負担するか、企業が利益を削るしかない」と課題を指摘する。 このような課題を踏まえ、現在の計画では実証実験的なアプローチを採用している。「まずは高額な特別商品(Beyond the Beyond)のラインナップに導入して、効果があるようならば他の商品へと展開を広げていきたい」と可能性を探る。 転売対策としてブロックチェーン技術に期待を寄せる獺祭の取り組みは、まだ始まったばかりだが、「できないと言って放置するのではなく、まずは始めてみる」と桜井社長は繰り返す。その眼差しは、業界の課題解決の先にある、「日本酒復活」を見つめている。 この獺祭の取り組みは、日本におけるブロックチェーン技術の実用化の一例だ。トレーサビリティ分野では、キリンビールがIBMの技術で製造工程を可視化し、KlimaDAO JAPANは「J-クレジット」のトークン化でカーボンクレジット市場の透明性向上を目指している。NFTの活用も広がり、ソニー銀行が歌手LiSAのツアーと連動したキャンペーンを展開。ゲーム分野では「オフ・ザ・グリッド」が配信サービスで1位を獲得するなど、2024年は多分野でブロックチェーンの実用化が進んだ。 関連記事:2024年ブロックチェーン活用事例──5分野から見える実用化元年 |文:栃山直樹|画像:旭酒造提供 【2025年始特集】インデックス“となりのWeb3”、日常に浸透する「夏」がやってきた【2025年始特集】一覧
CoinDesk Japan 編集部