転売対策、品質管理…海外展開を進める「獺祭」がブロックチェーンで挑む日本酒復権【2025年始特集】
価格高騰より大きな問題
「ワインもウイスキーも、ある程度人気が出てくると転売の影響にさらされる。これは私たちも例外ではない」 獺祭のような高級日本酒において、転売は単なる価格高騰以上の問題をはらんでいる。 「品質管理がちゃんとできないというのが一番の課題。私たちは海外に送る際は冷蔵コンテナを使用し、酒屋さんでも長期保管時は冷蔵庫に入れてもらう。しかし転売の場合は、コストを優先してそういった管理が望めない。それが私たちにとって大きな抵抗となっている」 獺祭は、20年以上前から海外展開を積極的に進めてきた先駆者的存在だ。現在では売上の約半分が海外市場によるものだという。2024年9月期の決算によると、獺祭の日本での売上高は195億円(このうち清酒は187億円)で、内訳は国内100億円、海外輸出87億円となっている。特にアメリカと中国が主要市場だが、これらの数字にはアメリカの酒蔵での売上は含まれていない。 ちなみに裏話だが、獺祭が脚光を浴びたきっかけについて、一般的には「安倍首相がオバマ大統領にプレゼントした」とされているが、事実は違うという。 「実際には、安倍さんがアメリカに行った時に、オバマさん側がサプライズで用意して、ホワイトハウスの晩餐会に出したのが一番インパクトがあったんです」。大使館を通じてホワイトハウスから直接オファーがあったもので、安倍首相本人も晩餐会の席についてメニュー表を見るまで知らなかったという。「よく安倍さんがサミットに出したという話を聞きますが、サミットに出たことは一度もないんです」と桜井社長は笑う。 国際展開における課題も浮き彫りになってきた。「転売された商品が大量に税関で見つかったという報告を受けることもある」。こういった課題に対応するため導入を決めたのが、ブロックチェーンによるトレーサビリティ(追跡)システムというわけだ。 「今回のシステムが全てを解決するとは思っていない。現状では穴が多い」と桜井社長は率直に語る。しかし同時に、「触らずに文句を言うのではなく、限定的でもいいから始めてみて可能性を探っていく」と前向きな姿勢を示す。 酒造メーカーを悩ませる根本的な問題もある。業界全体の衰退だ。「日本酒業界は昭和49年からずっと下降トレンドにある。この20年で酒蔵の数は2000から1200程度にまで減ってしまった」という。 国税庁がまとめた「酒類製造業及び酒類卸売業の概況(令和3年調査分)」によると、日本酒を製造する事業者は1167にまで減少している。 農林水産省によると、日本酒の国内出荷量は、ピーク時(1973年)には170万キロリットルを超えていたが、他のアルコール飲料との競合などにより減少が続いている。特に2018年以降は特定名称酒(吟醸酒、純米酒等)も同様に減少幅が大きくなり、2023年では約39万キロリットルまで減少している。 桜井社長は、日本酒市場が低迷する原因について「おいしい日本酒をちゃんと飲んでもらうことを、皆が努力しきれていなかった」と作り手と売り手双方の課題を指摘する。