地球上に敵なしのジムニーと狂気の爆速オフロード4WDのG63の対決 モータージャーナリストの清水草一が価格15倍以上の2台を乗り比べて分かったこととは?
この2台に乗って思ったこと、クルマ好きにとって日本は幸せな国だ!
もともとはあくまで機能ありきで産まれたオフロード・カーだったのになぜかオンロードはもちろん、都心でも大人気となった日独大小の4WD、スズキ・ジムニーとゲレンデヴァーゲンに乗ってモータージャーナリストの清水草一が感じたこととは。 【写真24枚】アジアで大人気のジムニーとアラブの王族がゾッコンのG63 2台の魅力を写真で分析 詳細画像はコチラ ◆地球上におおむね敵はいない カーマニア的な見地からすると、いま世界で最も“濃い”クルマが揃っているのは、日本車ではないだろうか。その主な理由は、欧米勢がEVシフトを強めたからで、EVファンにすれば、逆に日本車は不毛の地かもしれないが、内燃エンジン搭載車に限れば、日本車は大変な多様性を持っており、カーマニア泣かせなモデルもテンコ盛りである。 中でもスズキ・ジムニーは、最も濃い一台だ。 ジムニーは、現在もラダーフレーム+4輪リジッド・サスペンションを持っている。4WD機構も、古風なパートタイム方式を守っている。今どきそんなクルマ、ジープ・ラングラーとジムニーくらいしかない。その上MTが残されているのだから、それだけで猛烈に濃い。 しかもジムニーは、圧倒的にサイズが小さい。なにしろ軽自動車規格だから、特に全幅の狭さに関しては、地球上におおむね敵はいない。 サイズが小さいから、その分軽くもある。悪路走破性は、基本的には軽くて小さいほうが有利。道が狭ければなおさらだ。いずれにせよ、ジムニーのオフロード性能は世界屈指である。こんなクルマ、スズキにしか作れない。 かくもジムニーは濃い上に、とんでもなくカッコいい。スタイリングはパーフェクトに機能優先で、たくらみがまったくない。ジムニーのデザイン開発陣は、あえて「何もしなかった」というが、本当に何もしていない。そんなクルマも稀有である。 過去3代のジムニーと比べても、現行ジムニーのデザインの達観ぶりは際立っている。初代はあくまで「ウィリス・ジープ」のミニチュア版だったし、二代目・三代目は、どこか時代にすり寄っている部分も感じられた。しかし現行ジムニーのルックスは、すべての欲を捨てた即身仏。誰も文句をつけられない。 あえて難クセをつければ、「メルセデスGクラスにソックリじゃないか!」ということになるが、「Gクラスソックリに見えるかもしれないなぁ」という危惧すら捨て去って、何もしていない。それがたまらなくカッコいい。 ジムニーの国内向けの生産が追い付かず、いまだに納車待ち約一年が続いているのは、あまりにもデザインがカッコいいからだろう。世界屈指のオフロード4WD性能という裏付けがあるにせよ、林道を走るのに必要だからという人は、ごく一部のはずである。 ◆走るトーチカ 対するメルセデスGクラスは、軍用車を源流に持っている。軍用車もパーフェクトに機能優先。デザイン的な結論は、何も考えずに機能を優先したジムニーの相似形だ。 ただ、現在のGクラスは、ジムニーに比べるとケタ外れに高級化され、ステイタス・シンボルとなり、オンロード・ユースになっている。現行Gクラスでオフロードを走っている人はいるのだろうか? ゼロではないかもしれないが、ゼロに限りなく近いだろう。AMG G63ともなればなおさらだ。現在、世界中で売れているGクラスの約6割がG63だと言うから驚きだ。 いやもちろん、ジムニーでオフロードを走っている人の割合もそれほど高くはないだろうが、Gクラスはフロントのリジッド・サスもパートタイム式4WDも捨てている。堅牢なラダーフレーム構造やリア・リジッド・サス、三つのメカニカル・デファレンシャル・ロックは維持されており、悪路の走破性が落ちたわけではないが(たぶん)、それらはスーパーカーの最高速みたいなもので、実際にユーザーが試すのは難しいし、試す必要もない。 それよりなによりG63は、こんなカッコで物凄く速い。これぞ狂気の爆速オフロード4WD。細かい説明抜きで「凄えっ!」と思わせる。納車待ち数年というのも凄えっ! 私は6年前のGクラスのフルモデルチェンジ時、G63に試乗して、「怖いクルマだな」と思った。なにしろ585馬力を誇る4リッターV8ツインターボ・エンジンと、高い重心/後輪リジッド・サスの組み合わせなのだ。首都高を走ってみたら、恐るべきトルクのツキと、相反するステアリング・レスポンスの鈍さにビックリした。世の富裕層は、こんな怖いクルマでブッ飛ばしてるのか……。 しかしそれは、首都高だからこその違和感だったようだ。今回、G63で初めて郊外の高速道路を突っ走り、その豪快な走りに「これだったのか」といまさら納得した。横Gと無関係なシチュエーションでは、G63は無敵。アクセルひと踏みで、すべてのクルマが後方に遠ざかり、「走るトーチカ」のごとき見晴らしのいいコックピット内で、優越感を満喫できる。 Gクラスはこのたびマイナーチェンジを受け、G63も48Vマイルド・ハイブリッド(ISG)化された。発進時等には+200Nmのトルクが加算され、さらに出足がスムーズになったが、言われなければ気付かないレベルかもしれない。最新世代のマルチファンクション・ステアリング・ホイールの採用や、最新の「MBUX」への対応も図られているが、G63にとっては、そういった細かいことはどうでもいいような気もする。とにかく「凄えっ!」のである。 ◆実は2台所有も少なくない G63に試乗した後ジムニーに乗り替えると、あまりの遅さに衝撃を受ける。G63と一緒に走るのにかなり苦労する。 最大の要因は、パワーのなさではなく、ファイナルギア比の低さにある。1速で発進するとまるで車速が伸びず、2速へチェンジしている間にG63に引き離されてしまうのだ。G63がほとんどISGだけで加速している程度でも、置いて行かれる。 ジムニーのエンジンはターボのみ。軽自動車としては決してそんなに遅くはないし、いったん速度が乗ればなんの問題もなく快適に走ってくれるが、さすがにG63とは別世界だ。 ただ、解決策はある。上り坂を除いて2速で発進するのだ。それで1速から2速へのシフトチェンジの時間を短縮できる。ものすごく原始的な解決法で恐縮だが、発進のたびにセナのような超速シフトチェンジをするのも大変だし、G63に付いていくためには現実的な方法だ。 前述のように、ジムニーは4輪リジッド・サスを守っている。4輪リジッド・サスのクルマは、直進安定性がとても悪いのが通例だ。昔の映画の運転シーンのように、左右に当て舵が必要になったりする。 Gクラスも4輪リジッド・サス時代はそんな感じだった。ステアリング・レスポンスが悪いなんてものじゃなく、高速道路ではまっすぐ走らせるのに苦労した。思えば30年くらい前のGクラスは、ガソリンもディーゼルも100馬力前後しかなくて実に鈍重で、今のジムニーよりも遅く感じた。昔のランクルもしかり。本格派オフロード4WDというのは、元来そういうものなのだ。 それと比べると現行ジムニーは、ショート・ホイールベースの4輪リジッド・サスとは思えないほど、高速道路でも割とまっすぐ走ってくれる。4輪リジッドなのに左右にフラフラしないのだから、それだけで「凄えっ!」っと言いたくなる。ターボのおかげで、時速100キロでも快適に巡航が可能。案外静かだし乗り心地も悪くない。天国だ! G63よりもステアリング・レスポンスは緩慢だが、そもそも横Gをかけるなんて思いも寄らないので、G63で首都高を飛ばした時のような怖さを感じることもない。 さすがに後席は狭すぎて大人が乗るのは難しいが、2名乗車以内なら普段の足として問題なく使える。ジムニーの国内販売で4段ATが7割を占めているのを見れば、多くが「本物っぽくてカッコいい足」として使われていると推測できる。ATなら2速発進といった小技も必要ない。「本物っぽくてカッコいい足」として使われているという点は、G63もまったく同じと言うか、G63はほぼ100%ソレだ。値段は10倍以上違うが、日本での用途はある意味非常に近い。この2台を同時所有している富裕層も少なくないと聞く。 ただし海外では、2台のありようは大きく異なる。G63は全世界共通で富裕層のラグジュアリーな足だが、海外でのジムニーは、主に途上国で、「どこでも走れるマルチな足」として活躍しているのである。 昨年、インドやオーストラリアでジムニー・シエラの5ドア・モデルが発表されて話題を集めたが、途上国には、生活圏にれっきとした悪路があり、雨が降ると泥濘と化したりする。ジムニーの活躍の場は、アジア、オセアニア、アフリカ、中南米、そして日本。スズキは12年前に北米市場から撤退しているし、欧州でも燃費規制の影響を受け、販売が一時停止された(現在は商用車として細々と販売再開)。 つまりジムニーの世界での立ち位置は、相変わらずコンパクトで便利な本格派オフロード4WDのままであり、日本での使われ方はかなり特殊なのである。現行モデルは快適性がぐっと増したが、それはジムニーにとって付加価値に過ぎない。 一方のメルセデスGクラスは、軍用車から出発して、現在は独自のラグジュアリー・カーに変容した。 この2台、機械としての本質やフォルムはかなり近いが、用途は見事に分化した。ただしここ日本でのみ、重なり合って共存しているというわけだ。あぁ、日本に生まれてよかった~。 文=清水草一 写真=神村 聖 ■スズキ・ジムニー 駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 3395×1475×1725mm ホイールベース 2550mm トレッド(前/後) 1265/1275mm 車両重量 1040kg エンジン形式 水冷直列3気筒DOHCターボ 排気量 658cc 最高出力 64ps/6000rpm 最大トルク 96Nm/3500rpm トランスミッション 5段MT サスペンション(前) 3リンク・リジッド (後) 3リンク・リジッド ブレーキ(前/後) ディスク/ドラム タイヤ(前後) 175/80R16 車両本体価格 190万3000円 ■メルセデスAMG G63 駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4690×1985×1985mm ホイールベース 2890mm トレッド(前/後) 1655/1660mm 車両重量 2570kg エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCターボ+モーター 排気量 3982cc 最高出力 585ps/6000rpm 最大トルク 850Nm/2500-3500rpm トランスミッション 9段AT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン (後) 5リンク・リジッド ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/通気冷却式ディスク タイヤ(前後) 285/45R21 車両本体価格 3080万円 (ENGINE2024年11月号)
ENGINE編集部
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