『源氏物語』の英訳を「日本語訳」 桐壺更衣は〝ワードローブ〟の姫君 ウェイリー版で深まる作品の理解
紫式部が主人公の大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』はイギリスの東洋学者、アーサー・ウェイリーが英訳したことでも知られています。平安文学を愛する編集者のたらればさんは「英訳が再び日本語訳されたことで『源氏物語』の理解が深まります」と指摘します。(withnews編集部・水野梓) 【画像】「光る君へ」たらればさんの長文ポスト 放送の1年「情緒がもつのか…」
「宇治十帖」につながる「川辺の誓い」
withnews編集長・水野梓:大河ドラマ最新回の第42回「川辺の誓い」では、宇治の別邸で静養する道長(柄本佑さん)をまひろ(吉高由里子さん)が訪ねました。 そこで、光源氏が亡くなったあとの『源氏物語』で、子孫たちについてつづった「宇治十帖」の着想を得るというすばらしい流れでしたね。 生気のない道長を見て、宇治川を前にしたまひろが「この川で二人、流されてみません?」と言ったセリフ、まさに「宇治十帖」の浮舟の入水につながるなと思いました。 たらればさん:「宇治十帖」における浮舟の(身分違いの恋に引き裂かれた末の)入水自殺未遂は、あの頃の貴族にとっては禁忌中の禁忌でした。作中の薫や匂宮にとっても、ドラマ内の道長にとっても、自身の「死」とは第一義に「出家」で、肉体的な死はそのずっと後だったはずです。 (当時の感覚では最果てのど田舎である)東国育ちで母親の出自が低く、流儀もわきまえない浮舟だからこそ、「入水」という枠外の発想に思い至ったわけです。 そうした前提があるうえで、『光る君へ』「川辺の誓い(第42回)」を見返すと、「二人、流されてみません?」というセリフのあとで、数秒なにかに思い至ったようなまひろの顔がアップで映されました。 目の前に宇治川が流れていたことで(浮舟と同じく受領階級の子息である)まひろにとって「物語の続き」の着想を得る、という仕掛けだったんですね。大変お見事でした。 水野:宇治にある鳳凰が特徴的な「平等院」は道長の別荘を息子・頼通が寺院にしたものなんですよね。宇治には藤原一族のお墓「宇治陵」がありますし、関係の深い地だなぁと改めて思いました。