大谷が潰れる? 日本ハムの海外キャンプが持つ危険
投手だけの話でもない。オリックスの田口壮二軍監督は2009年、カブスに移籍。それまでの7年のキャンプはすべてフロリダで、アリゾナは初めてだったが、すぐさま違いを感じ、野手でさえ腕に張りを感じたそうだ。もちろん、投げるときに滑るからグリップをしっかり、といったように意識していたわけではなかったという。あの時、乾燥しているからかな、と首を捻っていた。 もちろん、日本と大リーグのボールは大きく違う。一度、エンゼルスのC.J.・ウィルソンに日本のボールを持たせたら、「粘りつくようだ」と話していた。「スライダーを投げたら、すごい曲がりそうだ」。 そんな日本のボールがアリゾナの乾燥した気候にどんな影響を受けるかだが、ないとは言えないだろう。かといって、選手らが投げるときに“滑る”とは感じないはず。ただ、ふと前腕部に筋肉痛のような張りを感じたら、岩隈らが言うように無意識に力が入っているということであり、その張りがあるうちに無理をすれば靭帯に負担がかかり、やがては、故障に繋がる。 近いところでは、今季から阪神に復帰した藤川球児がそうではなかったか。カブスと契約した2013年、2月から順調にキャンプを過ごしていたが、3月に入ると、しばらくオープン戦の登板から遠ざかるどころか、ブルペンにも入らなくなった。振り返ればあの時、右肘に違和感があったようで、そのままシーズンに入ったものの、再び前腕部に張りを感じ、その後、試合中に靭帯を断裂した。 日本ハムには、将来、メジャー挑戦を考えている大谷翔平という球界に宝もいる。投手陣は、キャンプ中の故障を未然に食い止めなければならないが、ブレーキをかける役目としてはうってつけの人材がいる。 今季、吉井理人が投手コーチに復帰したが、彼自身、かつてアリゾナのキャンプで前腕部に張りを感じた経験を持つ。2013年、やはり「ESPN」のクルーと安楽智大(楽天)の取材へ行った時、東京で吉井投手コーチに話を聞いた。取材後、ホテルの入り口で立ち話をしているとき、思い出したようにメッツからロッキーズへ移籍した2000年、初めてアリゾナでキャンプを行った際に腕が張ったことを教えてくれた。その原因が乾燥では?と疑うまで、それほど時間はかからなかったという。 おそらく、アメリカの乾燥地帯で起きる前腕部の張りが、単なる筋肉痛ではないことも経験から知っている吉井コーチならば、投手陣の状態をチェックしながら、危険な予兆を察知すれば、大事に至る前にストップをかけるだろう。あるいは、事前に備えをしているのかもしれない。ただ、温暖な気候に加えて、環境面も充実しているキャンプの裏に、こうしたリスクがあること忘れてはならないだろう。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)