吠えて、黙り、うなり、吠える。~垣永、鶴川、稲垣、細木。リーグワンの熱戦より~
理にかなった攻守に従って、きれいにメニューをこなしても本物の力はなかなかつかない。ドリルの品評会のようなトレーニングは、しばしばコーチの自己満足(わたしはこんなに最新の練習法を知っている)にとどまる。
試合中も似ている。勝負なので「哀」は不要かもしれぬ。それでも一瞬の悲哀なら奮起の伏線となる。喜び、怒り、その他もろもろ、ともかく「心が大きく動く」。一喜一憂のことではない。深いところの「喜」と「怒」と「哀」と「楽」。すると集団に生命力が宿る。これが対戦チームにはいやなのだ。
吠えた。あの柱の人が。ファンのてのひらを湿らす接戦の続くリーグワン。先の第3節、東京サントリーサンゴリアスの右のプロップ、垣永真之介である。対トヨタヴェルブリッツの後半17分過ぎのスクラム、鋭いヒットで反則を奪った。
後半開始に登場の背番号18は、人間じゃないみたいな仕草で厚い胸を叩きながら実に人間らしく感情をあらわにした。「吠える」について、一昨年の暮れ、本人の言葉を聞いた。
「雄叫びをあげてチームを鼓舞して元気づける。みんなができることじゃない。できることをやって生き延びていこう、みたいな感じです」
そのことを「隙間産業」とも称した。戦略的といえば戦略的。されど見せかけの興奮などすぐにばれる。気持ちのありようにウソはない。ないので仲間は燃える。ついでに観客や視聴者の胸にも熱は流れる。そういえば、敵陣に顔を向けて大声を発しては礼を欠くので、くるんと振り返り、自陣をめがける。そんな心配りも33歳の日本代表経験者は忘れない。
翌日。リーグワン第3節のこちらは三重ホンダヒートがクボタスピアーズ船橋・東京ベイと本拠地の鈴鹿でぶつかり、27-32の接戦を演じた。トライの数は4対4であった。
前半17分。ヒートは自陣スクラムでPを得る。体重114kgの左プロップ・鶴川達彦が同126kgのトンガ生まれのジャパン、山脈のごときオペティ・ヘルに組み負けず、正しい姿勢をいくらか長く保った。