吠えて、黙り、うなり、吠える。~垣永、鶴川、稲垣、細木。リーグワンの熱戦より~
直後。J SPORTSの中継カメラがすかさず姿をとらえた。いま映像で見返してもヒートの背番号1の表情をうまく描写できない。うれしいのに哀しそう。満足なのかそうでないのか、つかまえられない。息すら吐いていないのでは。サンゴリアスの「吠える人」とはまるで雰囲気が異なる。あちらが祭りの午後の商店街なら、こちらは夜中の寺の庭だ。
一見すれば「喜怒哀楽」は封じられている。では、よろしくないのか。いや、してやったりの直後の無表情とは実は雄弁である。「あまりに静か」ということは「大いに叫ぶ」にも等しい。ぐらつかぬ感情は、あえて解き放つそれと同じく対峙する者への圧力となる。
ザ・クワイエット・マン、静かなる男、鶴川達彦は、もっと評価されてよいヒーローである。当日の実況がこう伝えた。「2019年の入団以来、欠場は3ゲームのみ」。哲人の風貌の奥に鉄人がのぞいた。目立つ代表歴はなく、されどクラブには欠かせない。いわゆる「選手のための選手」だろう。怪力の印象こそないもののタフで、辛抱強く、対応力に長ける。
大学1年で早明戦に交替出場している。赤黒ジャージィの背番号は22。ポジションはなんとCTBであった。2年でFW3列へ転向。3年からスクラム最前列へ。達者なパスはバックス時代に培った。
ちなみに出身高校をつい「桐蔭学園」と書いたり話しそうになる。正確には「桐蔭中等教育学校」。あの常なる全国トップ級と同じ敷地にある関連校である。校名は似ていてもとても強豪ではありえぬ。大学へも一般の受験で進んだ。
東福岡高校時代に花園で大暴れの生粋のプロップ、カキナガ、吠える。県予選敗退の遅れてきた1番、ツルカワ、ただただ無音。くるんと回って両者の着地点は重なる。自信を、恐怖を、胸中の闘志を、咆哮あるいは沈黙で覆う。スクラムを押し合う相手にわが心理への侵入を許さない。
昨年12月21日。リーグワン開幕。開始17分過ぎ。埼玉パナソニックワイルドナイツは東京サントリーサンゴリアスからスクラムの反則を得る。 そのとき。左プロップ、稲垣啓太は野太くうなった。もちろん笑いはしない。能面の底に血潮どくどく。迫力がある。