「ハドソン靴店なら、もしかしたら……」“他店に断られた靴”の修理に挑む職人の心意気
思い入れの強い靴を蘇らせることが職人としてのよろこび
ーこれまでに印象に残っている依頼はありますか? 数え切れないほどありますが、最近では、こんなご依頼をいただきました。 ご年配の女性からの依頼で、亡くなったご主人の革靴を修理してほしいというものでした。息子さんの結婚式のために、ご夫婦と息子さんご夫婦の4人でデパートへ行って購入したもので、ご主人は結婚式に出席した後も、宝物のように大切にしていたそうです。 ですが、その後ご主人が突然他界してしまい、この靴は形見となってしまいました。そこで息子さんと、この靴をどうしようかと話し合ったところ、息子さんが「自分が履きたい」ということで、足のサイズに合うように修理することになったんです。 ー心温まるお話ですが、サイズって変えられるんですか? 大がかりな作業になりますが、手製靴の技術を生かせば、不可能ではありません。簡単に言うと、靴をいったん解体して、パーツの状態に戻し、息子さんの足のサイズに合う木型に合わせて、靴を作り直すんです。元の状態から3cmほど小さくする予定です。 ーそういった相談ができるお店ってなかなかないですね。 革靴は身の回りの道具の中でも長持ちするものなので、持ち主と多くの時間を過ごし、思い出を共有します。だから靴の修理って、つまるところ、思い出を修復することなんです。 ハドソン靴店は手作業が中心ということもあり、料金は他店と比べて安くはありません。そのせいか、ブランドものの高級靴ばかりを修理しているように思われがちなんですが、じつはそうでもないんです。 ひとつ共通して言えるのは、長年にわたって大切にされてきた靴が多いということ。この仕事を始めてわかってきたんですが、靴って、仕事で成功してから買ったステータスシンボル的な靴よりも、下積み時代を支えてきた靴のほうが、持ち主の思い入れが強くなるものなんです。そういった靴を修理できることは職人冥利に尽きます。