「ハドソン靴店なら、もしかしたら……」“他店に断られた靴”の修理に挑む職人の心意気
ー道具にも雰囲気があって、見ているだけでうっとりします。 美しい靴は美しい道具から生まれるもの。自分が使いやすいようにカスタムして、長年使い込むのが好きなんです。革を裁断する革包丁は、浅草の名人の研ぎ師のところでアドバイスをもらいながら、自身で毎日研いでいます。針や糸も自分で手を加えたものが多いです。 マシンに関しても、細かい部分を自分流にカスタムして、色も自分好みに塗り直しています。同業者の方が訪ねて来た際、「このメーカーに、こんなカッコいい機種あったっけ?」とビックリされることも(笑)。
作業用の照明や道具を入れるケースにもこだわっていて、東京・恵比寿のパシフィック・ファニチャー・サービスで買うことが多いです。
ー修理に使うパーツもとんでもない数ですね。 特に充実しているのが、ウェルト(靴の周囲を縁取るように、アッパーとアウトソールに縫い付ける細い帯状の革パーツ)です。カタチや幅などかなりの種類を用意しています。靴のアッパーに合わせた色に着色してから使います。
こちらの棚にたくさん並んでいる瓶は、靴底の側面(エッジ)を着色するために使うエッジインクです。同じ黒でも、染料や顔料のバランスが微妙に異なるため、靴に合わせて使い分けます。
ヒールにつけるラバーパーツも、日本のものは若干厚みがないので、海外ブランドの靴につけると歩き心地に違和感が生まれる場合があります。そのため、日本のものより数ミリ厚いラバーパーツを用意しています。
ー靴といってもいろいろな種類がありますが、どんな靴でも修理を受け付けるのですか? 基本的に革でできた靴であればお受けします。レザーサンダルのご依頼も多いですよ。 「村上さんはどんな靴が好きですか?」と聞かれることもあるのですが、私自身はあえて好みを持たないようにしています。なぜなら、私がアメリカの靴が好きだった場合、修理した靴がアメリカ靴っぽいテイストに偏る可能性があるからです。 一足一足、すべての靴をリスペクトして、その靴だけが持つ本来の魅力を引き出すように努めています。 ー修理の内容によっては、断ることもあるんですか? まれにありますね。たとえば、先日、あるハイブランドの革靴をお持ちになったお客様がいらっしゃいました。もともと光沢のある緑の靴だったのですが、色が褪せてしまったので、他店でオールペイントを依頼したところ、まったく別の色になってしまったそう。それを何とかしてほしいと。 こうした場合、その塗料を完全に除去したうえで、特殊な塗料を調合し、塗り直すことになります。 ただ、作業料金がけっこうな値段になるものの、完成したものがお客様のイメージにぴったりと合うものになるかどうかに100%の確信が持てませんでした。 そこで修理の内容と問題点を説明し、話し合った結果、修理をしないことになりました。靴を元通りにすることはできませんでしたが、お客様には、「やっと納得できた。相談してよかった」とおっしゃっていただきました。