「ハドソン靴店なら、もしかしたら……」“他店に断られた靴”の修理に挑む職人の心意気
手製靴の技術を生かした修理が評判に
ーなぜ、靴修理をメインにしたんですか? 今の世の中、革靴を履く人は減る一方で、よほどのブランド力や知名度がなければ、靴作りだけで食べていくことは難しい。そこで靴作りにこだわらず、修理を始めたんです。すると、これが想像以上に好評で……。作業が難しい、手間がかかる、などの理由から、靴の修理店や販売店に修理を断られた靴は少なくないんです。 その点、手製靴をいちから作れる技術があれば、他店で断られた修理にも幅広く対応できます。「横浜のハドソンさんなら、もしかしたら……」と、全国の靴専門店や百貨店のご紹介でいらっしゃるお客様も多いです。 ーたしかに、本格的な靴職人が手がける修理店ってあまりないですね。 私は東京の手製靴職人である関信義さんにも靴作りを教わったんです。佐藤さんも、関さんも、常々弟子たちにこう言っていました。 「食うために職人をやれ。そのために柔軟に対応しろ」 日本では、靴職人になることよりも、靴職人として生計を立てていくほうがよほど難しい。私は店を継いだときに、この言葉をあらためて胸に刻みました。
人目につきにくい細部にこそ、とことんこだわりたい
ー修理ではどんなことを心がけていますか? お客様に心から満足していただくには、自分の技術を見せつけるのではなく、お客様のニーズに的確に対応することが肝心です。そのためには「お客様が求めていること」を正確に知らなくてはなりません。 そのため、最初の打ち合わせには時間をかけます。初めてのお客様の場合は2~3時間くらい話し込むことも。話をしながら、その方が持っている靴への思い入れやこだわりなども確認し、料金を説明したうえで、修理の内容を決めていきます。 最近は遠方のお客様も増えてきたので、ご来店が難しい場合は、宅配便で送っていただき、後日、電話やLINEで打ち合わせをしています。
ー具体的にどんな点にこだわっているんですか? 靴の一部分だけを直すのではなく、靴を作るように“リメイクする感覚”を大切にしています。たとえば、モカシンシューズ(甲がU字形に縫合された靴)のモカシン縫いの糸切れ。市販の糸で修理することもできるのですが、それでは耐久性が下がってしまう。 そこで糸を撚り直して松ヤニを擦り込み、ひと目ずつロックをかけて縫い上げることで、強度を高めています。もともとモカシン縫いは靴職人が行う作業なので、こうした修理が可能なんです。 また、靴の雰囲気を損なわないことも大切です。たとえば、半カラス仕上げのアウトソールにハーフラバーを貼る作業。アウトソールが黒く塗られたものをカラス仕上げといい、半分だけ塗られたものを半カラス仕上げといいます。 ハドソン靴店では、半カラス仕上げの場合、黒く塗られた部分の形状に合わせてハーフラバーを貼ることもできます。人目につきにくい部分ではあるんですが、ウチにいらっしゃるお客様は細部までこだわる人が多いんです。